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   タイ導水事業
  「貧しい農民に水を」というかけ声のもと、タイでは何度も巨大な導水事業が計画されています。水源はメコン河や近隣諸国を流れる河川です。農地に水を届けるという解決策は一見農民のためになると思われがちですが、その裏に多くの問題をはらんでいます。水を受け取る東北タイでは、灌漑事業のために深刻な塩害が発生、またダム建設に伴う農地の収用を巡って政府と農民が対立するケースもあります。メコン河の流域からタイ国内に導水する計画は、1991年のコンチームン導水計画、2003年の全国送水網(下記)など、様々な構想がありました。また、2008年になって、全国送水網の一部であったナムグム・ファイルアン・ラムパオ導水計画が実現に向けて動き出しています。国境を超える環境・社会影響の発生も懸念されるこれらの事業の一部は、日本のコンサルタント会社が立案に深く関わっているものがあります。
  
    - プロジェクト名
 
    - ナムグム・ファイルアン・ラムパオ導水計画など
 
    - プロジェクト地 
 
    - タイ全域と近隣諸国(ラオス、ビルマ、カンボジア)
 
    - 実施機関
 
    - タイ政府 
 
    - 資金供与
 
    - ナムグム・ファイルアン・ラムパオ導水計画:タイ政府(総事業費は767億バーツ、2008年7月時点のレートは約2,450億円)
      その他は未定 
    - 状況
 
    - ナムグム・ファイルアン・ラムパオ導水計画の予算が2008年7月に承認された。かつて日本がラオスに援助して建設したナムグムダムの下流から取水し、メコン河下にパイプラインを敷設しタイに水を運ぶ計画。
 
    - 懸念される問題点
 
    - ・塩害などの環境影響
      ・事業のための土地収用 
      ・地域の農業経営にそぐわない高額な水使用料の徴収 など 
    - 過去の導水計画
 
    - 【コンチームン導水計画】 
      タイ政府は、東北タイの貧困の原因を水不足と考え、そのために大規模な灌漑を推し進めてきました。その代表格がコンチームン導水計画です(注:3河川の名前が事業名となっている。コン:メコン河、チー:ムン川の支流、ムン:メコン河の支流)。1989年に政府が決定した計画では、42年間、90億ドル以上をかけて、東北タイの498万ライ(79万6000ha)を3つのフェーズで灌漑するというものでした。第1フェーズが既存のランパオ・ダム灌漑システムの改善を含む17のダム建設、第2フェーズが新たな灌漑システムの建設、第3フェーズがメコン河本流(ビエンチャンから20キロ上流)にダムを建設して導水するという計画です。第3フェーズの灌漑予定地は427万2050ライ(68万3528ha)、事業全体の86パーセント近くを占めています。 
      1992年の民主化運動後、科学技術環境省の環境計画政策局(OEPP)が「環境影響分析専門家委員会」を設置し、専門家委員会はコンチームン導水計画を含めた大規模インフラの見直しなど厳しい勧告を提出しました。しかし、当時のチュアン政権は、メコン河本流からの導水を除きほとんど勧告を受け入れませんでした。第1フェーズは予定していた2000年には完了しませんでしたが、これまで3つの地域でダムと灌漑システムが完成し、9つのダムが完成しています(灌漑システムは未完)。 
      コン・チー・ムン導水計画で唯一稼働している灌漑システムは、ナコンラチャシマ県のチュンプアン・ダムで灌漑面積は200ライ(32ha:2000年の調査)です。政府は農民に灌漑利用の拡大を呼びかけていますが、水使用代、揚水ポンプの電気代、乾季作のための化学肥料代が負担となり、農民の利用は多くありません。また、深刻な塩害も発生しています。当初は灌漑水が塩を洗い流すと言われていましたが、実際には排水が悪い場所では水が塩害地帯を拡大させています。排水が良い場所でもwater 
      logging(土が水浸しになる状態)によって地下水の水位上昇に伴って、塩害が深刻化しています。 住民と政府の対立も深刻化しています。1992年に完成したラーシーサライダムは周辺住民の農地や漁業に甚大な被害をもたらし、住民の抗議運動により2000年にはダムの水門の開放が実施されました。その後も補償交渉などが長引くなど、未だに地域住民の生活に影を落としているのです。 
      
      
       【ウォーター・グリッド(全国送水網)】 
      2003年1月、タイ国家水資源委員会は「持続的な水資源管理についての行動会議」という会合を開きました。このときWeb上で公開されたプレゼンテーション用資料によると 
      、2004年から5年間で農地として利用されている土地のうち、未だ施設のない1億300万ライ(約1648万ha)を灌漑する計画で、乾季に不足する水は近隣諸国から導水し、雨季と乾季の効率的な水管理とナショナル・ウォーター・グリッド(全国送水網)を構築する必要が謳われていたのです。このシステムは、既存のダムや貯水池と河川などの天然水系を運河や送水管でつなげ巨大な網の目(グリッド)を構築するというものです。 
      
        
         表:全国送水網の乾季における近隣諸国からの導水  
        
         
          | 相手国 | 
          調査プロジェクト | 
        
         
          | ラオス | 
          ナムグム→フアイ・ルアン(ノンカイ県) | 
        
         
          | セバンヒエン川→チー川下流域(ウボンラチャタニ県) | 
        
         
          | セバンファイ川→ムクダハン県 | 
        
         
          ビルマ (ミャンマー) | 
          サルウィン川→プミポンダム | 
        
         
          | カンボジア | 
          サトゥンナンダム→トラート県、チャンタブリ県、ラヨン県 | 
        
      
                  「持続的な水資源管理についての行動会議」2003年発表資料参照 
                 (ラオス南部の言葉で「セ」は川を意味するが、ここでは「セバンファイ川」と表記)
       
      ビルマのサルウィン川では、タイに電力を輸出するための水力発電ダムの建設が予定されています。カンボジアからも、建設予定のサトゥンナン1−3の3つの水力発電ダムから水を引くことが検討されています。
      ラオスも3か所の候補が挙がっています。既存のナムグムダムから水を引くほか、建設中のナムトゥン2ダムがナムトゥン川の水を発電後に排水する予定のセバンファイ川が対象となっています。そして、日本の三祐コンサルタンツ社が作り上げた「持続可能な農業のためのラオス−タイ友好水開発プロジェクト 
      」計画そのままの内容で、セバンヒエン川も調査対象となっていました。このプロジェクトの目的は、セバンヒエン川の中流域の洪水被害の軽減と乾季における水の利用でした。しかし、ラオス側で『余剰』となる水があるので、メコン川の下にトンネルを掘削し、東北タイのチー川下流域に運び灌漑を行うという構想が日本企業によって提案されていたのです。事業では、セバンヒエン川に本流と支流に2つのダムを建設、この2つの貯水池をつなぎメコンまでの運河を掘削、メコン河の下にトンネルを掘ってタイ側に水を運ぶというものです。国家水資源委員会は詳しいプランを公開しませんでしたが、セバンヒエンからチー川流域への導水は三祐の計画と同じです。また、同社が国際協力機構(JICA)の調査として行った、コックインナン導水計画の一部も、全国送水網に含まれていました。
      この事業は2003〜2004年に調査が行われ、2004年には建設に着手、2008年には完成するという予定でした。しかし、クーデターによるタクシン政権の崩壊で結果として実施されていません。 
  
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