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第8号 川のための国際行動デー声明「メコン河の保全に向けて」

セーブ・ザ・メコン・キャンペーンニュース2010年4月22日

メコン河では近年、大きな環境の変化が見られます。流域では2008年の雨季に広範な洪水被害があった一方、今年の乾季は50年ぶりと言われる大幅な水位低下に 直面しています。メコン河が直面する危機的な状況に警告を発し、メコン河を保全する国際的な枠組みの強化を呼びかける目的で、メコン・ウォッチも加わって いる、セーブ・ザ・メコン連合(注1)は、「川のための国際行動デー(注2)」に下記の声明を発表しました。

原文英語:
http://www.savethemekong.org/admin_controls/js/tiny_mce/plugins/imagemanager/files/StMStatement14.3.10.pdf

声明では今回の水位低下の問題で経済、社会、環境面での被害を最小限に抑えるため、中国を含むメコン河地域諸国が積極的に協力し、情報を共有すること、ま た、河川全域の住民と共に対策を進める必要があることを訴えています。

注1)NGO、地域の人々、研究者、ジャーナリスト、芸術家、メコン流域国内外の一般市民が集まったネットワーク組織。
注2)アメリカのNGOの呼びかけで始まった日。川に集まる生命を祝福すること、川に関して人々を啓蒙すること、川の破壊に抵抗することを目的とし、3月14日 に世界中のNGO、住民組織が各地でイベントを行っている。

セーブ・ザ・メコン声明 
「水位低下の深刻な被害を乗り越えるには地域的協力が必要」

2010年3月14日

3月14日(土)は、「川のための国際行動デー」である。メコン河ではここ数十年で最悪の水位低下が起こり、地域住民にとってのメコン河の重要性が痛感されている。また、メコン河本流のダム建設計画が再燃し、河の生態系と資源が脅かされている。こうした中、今日は、生命の源ともなる河川の恩恵について考え、現在と未来の世代のためにメコン河を守る行動を起こすべき日である。

深刻な水位低下

メコン河の水位はますます低下しており、河岸のコミュニティーのみならず、メコン河流域の多くの住民に深刻な影響を与えている。中国雲南省、ビルマのシャン州東部、タイ北部及び北東部、ラオス北部の人びとは、特にその影響に苦しんでいる。漁獲高は減り、灌漑農業や家畜用の水は乏しくなり、飲料水も不足している。河川交通は止まり、商業や観光業にも影響が出ている。

漁獲高、収穫量、家畜、飲料水の減少は、この地域で最も貧しい村落の生活や食料安全保障、経済に打撃を与えている。世界的経済危機の中、こうした村落が災害を乗り越える手立てはほとんどない。

例年4月、5月はメコン河の水位が最も低くなる時期であり、流域全体にさらに大きな影響が出る可能性が高い。ラオスの河岸地域では、魚の不足や乾季の河岸農業に必要な水の不足が報告されている。カンボジアでは漁業が食糧安全保障と経済の中心であるが、漁業が行われるトンレサップ湖では毎年の漁獲高が水位に比例するため、水位低下は深刻な影響をもたらす。1000万人以上の農民及び漁民が暮らすベトナムのメコンデルタ地域では、一部で塩水が内陸部に60キロ近く流入している。これは例年の倍の流入であり、農業と漁業が脅かされている。

メコン河委員会の怠慢

メコン河委員会(The Mekong River Commission, MRC)は、メディアが水位低下の深刻な影響について報道してから2週間以上も経った2010年2月26日に声明を発表した。声明によると、メコン河の異常な水位低下の原因は、2009年の雨季に「例年よりも雨量が少なかったこと」と、中国雲南省、タイ北部、ラオス北部で「2009年9月から、月間降雨量が平均よりもかなり低い状態が続いていること」である。

少なくとも2009年9月から深刻な水位低下が起こる明らかな前兆があったのであれば、こうした前兆を監視する役割を負うMRC事務局は、警告を発して水位低下に備えるよう促すべきであった。それにも拘らずMRC事務局がこうした行動をとらなかったことは怠慢である。

2008年8月にも同じようなことがあった。このとき、MRC事務局は、タイ北部とラオス北部に洪水について十分な警告を出さず、この地域の住民の生活は壊滅的被害を受けた。当時、多くの組織やNGOがこの失敗を非難した。それなのに、今回MRCが同様の失敗を重ねたことは、MRC内部に深刻な組織的問題があることを示している。

MRC事務局の不透明性、データへのアクセス阻害、対処の遅れは、今回の干ばつやメコン河本流のダム建設計画についても見られる。セーブ・ザ・メコン連合は、これを遺憾に感じ、MRC事務局の業務のあり方を見直すよう呼びかけている。

中国のダム

MRCは、報告やメディアへの発表において、瀾滄江(メコン河上流)の中国のダムは深刻な水位低下の原因ではないと述べてきた。中国もMRCも、この結論を裏付けるようなデータを発表していないにも拘らず、MRCはこのような立場をとっている。中国は、2009年10月に、世界最大の堤高をもつアーチダムで、瀾滄江に建設された4つ目のダムである小湾ダムの貯水を開始した。MRCが確認した水位低下の時期は、この貯水と、その後に起こった下流の水量減少の時期と重なっている。

メコン河下流諸国が、今回の水位低下に瀾滄江のダムが関係しているのではないかと疑うのも無理はない。メコン河では、1990年代初頭から日常的に水文学的な変化が起こり、沈殿物の量も変化している。研究者たちは、こうした変化をすでに瀾滄江のカスケードダムに関連付けている。そして、こうした変化のため、タイ北部、ビルマ、ラオスの下流地域は魚の数や水生植物資源の減少という害を被り、地域経済と生活が影響を受けた。中国のダム建設にあたっては、協議や謝罪、データの公開、補償や損害賠償の支払いがずっと以前に行われているべきだったが、それが行われないまま建設が行われているのである。

瀾滄江に建設された最初のダムは漫湾ダムであり、その最初のタービンが始動したのは1992年だが、これは1992年〜1993年に起こったメコン河の水位低下と時期が重なる。瀾滄江の2番目のダムは2003年10月に完成し、同時期の2003年〜2004年に水位低下が起こっている。3番目の景洪ダムの建設は2008年末に完了した。
現在貯水中の小湾ダムの貯水量は、上記3つのダムをあわせた量の約5倍である。

ダムがこれまで水位低下にどう影響したかは、明らかになっておらず、発表されてもいない。そればかりか、事実がしばしば曖昧にされている。例えば、タイ国内メコン委員会は、水位低下に関する今年の報告書で、漫湾ダムの操業が1992年ではなく1994年に始まったとしている。このように報告することで、同ダムが1992年〜1993年の水位低下をもたらした可能性を覆い隠しているのである。

中国雲南省の農民は水位低下から非常に深刻な被害を受けたが、タイとラオスの漁民や農民も同様の経験をしている。セーブ・ザ・メコン連合は、中国政府に対し、川に依存している全地域で被害をできるだけ小さくするため、残っている水資源を公平に共有することを求める。

2010年3月10日付バンコク・ポスト紙は、中国政府関係者が、メコン河下流諸国の政府関係者を景洪ダムでの水位視察に招待したと報じた。また、在バンコク中国大使館は3月11日に記者会見を行い、水位低下に関する意見を表明した。セーブ・ザ・メコン連合は、こうした動きを透明性の高まりと情報開示の促進の現れとして歓迎する。

中国が、下流地域の信頼を得るとともに、ダムが水位低下を生じさせていないことを示す最も簡明な方法は、景洪ダムの視察旅行に市民社会の代表をオブザーバーとして招待し、同様の視察旅行を瀾滄江の4つのダムすべてについて行うことである。

降雨、川と貯水池の水位、ダム建設が始まった1980年中ごろからのダム操業に関するあらゆるデータを開示し、ダム操業と水位に関する一般向けの報告を定期的に行えば、下流地域からの信頼が強まるだろう。また、こうした活動は、現在生じている影響を対象とした補償と、将来の影響を最小限に食い止めるための補償に関して、下流諸国との交渉につながっていくだろう。

メコン河本流のダム:生態系、生活、食料安全保障に対する脅威

メコン河上流の中国瀾滄江にダム15基を建設するという計画に加え、カンボジア、ラオス、タイのメコン河下流に水力発電用ダム11基を建設するという計画は、メコン河の脅威となっている。この11基が建設されれば、地域全体に深刻な影響が及ぶだろう。こうしたダムは多くの魚の回遊を妨害し、収入、生活、食糧安全保障についてメコン河に依存する数百万人を危機に晒す。他諸国の経験から分かるように、これほど大規模なダムの漁業への影響を軽減することは不可能である。

セーブ・ザ・メコン連合は、あらゆる関係者に対し、現在と将来の世代のためにメコン河を守るよう常に呼びかけてきた。我々は、地域全体の数百万人の食糧安全保障におけるメコン河の重要性を強く主張する。2009年10月に、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムの首相に23,100人の署名が送付され、この主張が伝えられた。署名は、カンボジア、ラオス、タイ、ベトナムの国内メコン委員会議長にも送付された。メコン河開発に関する国家及び地方レベルのしっかりとした協議プロセスを行い、そこに全ての河川コミュニティーが確実に参加できるようにすべきであるという呼びかけが行われたのである。

現在起こっている水位低下と2008年の大洪水は、河川が変化しやすいものであることを示すと同時に、季節によっても変化が起こること、川に対して人的介入を行う場合、これまでよりもずっと慎重なアプローチを取る必要があることも示している。温暖化する世界にとって、さらなるダム建設は解決策とならない。タイ政府は、最近、干ばつ対策として、バングムやパクチョムなどのダム建設を正当化しようとした。セーブ・ザ・メコン連合は、このような発言を非常に憂慮している。瀾滄江・メコン河本流でのダム建設で、河の活力はますます失われる。セーブ・ザ・メコン連合は、エネルギー需要に持続的に応えると同時に、地域の河川を守るような、より良いアプローチを求める。

地域的な協力が緊急に必要とされている

深刻な水位低下で、メコン河沿いの住民や、より広いメコン河流域の人びとにとって、メコン河やその資源がいかに重要であるかが再度明らかになった。

水位低下に対し、MRCの下で協力して共同の予備的対策をとるという試みは失敗した。この異常事態において、水位低下による経済、社会、環境面での被害を最小限に抑えるため、中国を含むメコン河地域諸国が積極的に協力し、情報を共有して、河川全域の住民と共に対策を進める必要がある。

(文責/メコン・ウォッチ 翻訳/草部志のぶ)

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