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カンボジア国道一号線>現地NGOがJICA緒方理事長に要望書

メコン河開発メールニュース 2006年7月19日

2006年7月9日の本メールニュースで、カンボジアにおける強制立ち退き問題の深刻さをお伝えしましたが、現在日本の無償資金協力で進められている国道一号線改修事業においては、2000軒を超える移転が必要になります。

しかし、日本政府はアジア開発銀行など他の援助機関とは異なり、移転を余儀なくされる住民たちに対して、失う住居などの「再取得費用」を補償する方針を打ち出そうとしません。

以下、この問題について、メコン・ウォッチの後藤歩による解説と、現地のNGOForum on CambodiaからJICAの緒方貞子理事長に送付された要望書の邦訳です。


2006年7月5日、カンボジアNGOフォーラムが国際協力機構(JICA)の緒方貞子理事長宛てに、カンボジア国道一号線改修事業の補償方針に関する要請書を提出しました。この要請書では、道路の改修によって移転を求められる住民に適切な補償が約束されていないため、移転後に住民が生計を回復できるかどうかが強く懸念されており、適切な補償が約束されるまで、ODAの支払いを凍結することを要求しています。

この要請書が出される約1ヶ月前の6月12日、日本の外務省はカンボジア政府と「国道一号線改修事業」の2期目の無償資金協力に関する交換公文を結びました。
外務省のホームページには、道路が改修されることで「経済・社会活動の発展に資することが期待される」と書かれていますが、カンボジアNGOフォーラムによれば、本事業によって移転を求められる2000軒以上の家屋に住むカンボジアの人びとに、適切な補償を受け取ることが約束されていません。

無償資金協力の責任は外務省にありますが、環境社会配慮を含む事前の調査や実施の支援はJICAが担っています。そのため、カンボジアNGOフォーラムはこれまでJICAに対して、移転した住民が生計回復できなかった過去の援助による道路事業の二の舞を踏まずに、環境社会配慮においてその教訓を活かすことを強く求めてきました。

JICAはこれに対して、環境社会配慮に関する調査をやりなおし、スケジュールを遅らせて住民からの合意取得(注:協議ではない)に時間をかけ、代替地を用意するなど、一定の改善の努力をおこなってきました。しかし、要請書では、住民が失う土地以外の資産への補償の算出方法が不適切であるというカンボジアNGOフォーラムの指摘に関して、JICA/外務省は最後まで住民やNGOとの十分な協議や説明をおこなわないまま、交換公文を結んだと指摘されています。

緒方貞子さんが理事長に就任してから、JICAは「人間の安全保障」の理念を打ち出して事業をおこなっているようです。しかし、この事業では、現地のNGOから移転後の生計回復を左右する補償内容に疑問がなげかけられたまま、住民移転が始まろうとしています。カンボジアのNGOは移転する住民が生計を回復できなくなることに強い懸念を示し、JICAが提唱する人間の安全保障とその実施との乖離に対して、厳しい疑問を投げかけています。

事業の詳しい情報は下記をご参照ください。
カンボジア 国道一号線改修事業


2006年7月5日

緒方貞子 理事長
日本国際協力機構

人間の安全保障に関するJICAの方針とカンボジア国道一号線改修事業におけるその実施について

 

拝啓 緒方貞子様

私たちは、日本政府とカンボジア政府が先月始め、重大な移転問題を解決しないまま、国道一号線改修事業(以後、本事業)第2期の無償資金協力に関する正式な合意を結んだことを知り、大きな懸念を抱いています。本事業の移転対象住民およびカンボジアのNGOは、本事業の不適切な補償方針について何度もJICAに懸念を訴えてきましたが、JICAはそれに応えることをしませんでした。私たちは、JICAが人間の安全保障の概念を事業実施に活かすという自らの政策に立ち戻り、早急に本事業に他の国際金融機関も用いている適切な補償基準を適用することを求めます。なお、事業が始まった後の環境社会配慮への対応は日本の外務省に責任があることは承知していますが、実際にはJICAが補償方針の詳細を把握し、外務省をサポートしていると理解しています。よって、JICA理事長である緒方さんへ我々の懸念および要望を伝えたいと思います。

本事業の補償計画において、JICA・外務省は、アジア開発銀行(ADB)や世界銀行が適用している「Replacement Cost(再取得費用)での補償」を確認しておらず、単にカンボジア政府が提案したものを適用しているにすぎません。これは、JICAの環境社会配慮ガイドライン(以下、ガイドライン)に沿っていないと考えます。移転が発生した過去のインフラ事業の事例から考えても、私たちは本事業の補償計画によって移転する人びとが果たして生計回復をおこなえるのか、非常に懸念しています。カンボジアではこれまで、7つ以上の援助事業で住民の立ち退きが求められ、それらも当初は、本事業と同じような補償計画でした。しかし、融資をしたADBは後日、カンボジア政府に追加の補償の支払いを求めることになり、また、生計回復事業をおこなわなければならなくなったのです。この結果、今では、ADBとカンボジア政府は再取得費用で補償をおこなうことに合意し、この方針は今後のADB融資事業の全てに適用されることになっています。これは、改修が始まっているポイペトとシェムリアップを結ぶ国道5号線にも既に適用されています。

JICAはこれらの過去や現在の事例から学び、本事業の補償計画がJICAのガイドラインを遵守したものになるようにするべきです。カンボジアには深刻な移転問題がありますが、カンボジア政府には移転問題に対処できるような十分なキャパシティーが欠けています。また、カンボジアには移転に関する法整備が存在していません。私たちは、このような状況のもとでは、適切な移転計画をつくる責任は援助国・機関にあると信じています。

カンボジア政府は現在、ADBの支援のもとで国家移転政策をつくっています。JICAは、(移転政策の策定を待たずに)従来の補償計画を使うことで混乱を招くのではなく、ADBや世界銀行と協力して、カンボジア政府が再取得費用での補償や土地権の付与を約束するしっかりとした移転政策をつくる支援をするべきです。
もしも、新しい移転政策がこれらを保障しない場合でも、JICAはADBや世銀のように、カンボジア政府に再取得費用での補償を求めるべきです。再取得費用での適切な補償が、カンボジアの国家移転政策かJICA/外務省の方針のどちらかで約束されない限りは、本事業へのODAの支払いはおこなうべきではないと私たちは考えます。

高い基準の補償と住民との十分な協議を求める声を退けるJICAの行動は、人間の安全保障という概念をJICA事業に反映する、という自らの方針を適切に反映していません。緒方理事長が共同議長をつとめた人間の安全保障委員会の報告書には、人間の安全保障は政府ではなく「個人」に重きを置いた考え方の提唱でもあると書かれています。

「人間の安全保障は国家の安全保障を補完し、人間開発を促進するとともに人権の質を高める。人間の安全保障は、人間中心の考え方である点、また従来の安全保障概念上は脅威と見なされなかった危険要因を扱う点で、国家の安全保障を補う。また、『常に下方に落ち込んでいく危険性』に光を当てることで、人間開発の焦点を『社会公正を伴う成長』の先へと広げる。さらに人権の尊重は、人間の安全保障の核心をかたちづくる」

「移動する人々の保護と能力強化:,,,難民と国内避難民を確実に保護し、現状から救済する手段を講じることも重要である」

これにも関わらず、上述したようにJICAは再取得費用での補償をカンボジア政府に求めることをせず、住民・NGOとの協議も要求できないほどに、カンボジア政府の主張に合わせています。例えば、2005年1月には、「同年8月には補償単価の改定結果が出る」ということでしたが、今日まで、住民ともNGOとも補償単価の改定に関する協議はありません。また、2005年12月にカンボジアのネットワークNGOであるResettlement Action Network(RAN)が、資産調査に関する懸念を書いた調査報告書を送りましたが、それへの返事はありません。また2006年3月には、JICAの環境社会配慮審査会委員の方々との会合の席で、本事業の補償単価や資産の評価方法に関する懸念を伝えましたが、私たちにはその最終的な内容が知らされないまま、交換公文が結ばれてしまいました。

そのため、私たちは下記のことをJICAに求めます。

1.再取得費用での補償が合意され、それに基づき適切な補償計画がつくられるまで、国道一号線改修事業への支払いは凍結する

2.住民の権利と生活を完全に保障するため、ADBや世界銀行と調整しながら、影響を受ける住民の資産への再取得費用での補償を約束する移転政策の策定に協力する

3.カンボジアの移転政策が住民の権利と生活を保障するのに不十分なものとなった場合は、JICA自身の環境社会配慮ガイドラインに沿い、ADBや世界銀行の政策にもならい、再取得費用を確保する補償方針を全てのJICA事業に打ち出す

4.こうしたプロセスにおいて、カンボジア政府関係者だけでなく、影響を受ける住民やカンボジアのNGOとも十分協議を行う

人間の安全保障の重要性に鑑み、本事業により影響を受ける人びとの権利が保護され、移転後の生計改善ないしは回復が約束されるために、JICAが早急で適切な対策をとることを要求し、お返事をお待ちしています。

敬具

NGO Forum on Cambodia代表
Chhith Sam Ath

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