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カンボジア強制立ち退き>現地NGOが日本大使館に要望書

メコン河開発メールニュース 2006年7月9日

日本や国際機関のODAを使ったインフラ事業が多くの住民を立ち退かせ、生活を脅かすという問題があとを絶ちませんが、カンボジアでは住民の人権を無視した強制立ち退きが、「貧困削減」の美名のもとで行われています。

これに対して、カンボジアで居住や人権侵害の問題に取り組む現地NGO三団体が、日本政府を含むドナーに対して、適切な移転政策が作られるまでは立ち退きを行わないようカンボジア政府に働きかけることを求めた要望書を提出しました。

なお、日本が無償資金協力を行っているカンボジア国道一号線改修事業をめぐっては、適切な移転政策が作られていない中で、大規模な立ち退きが始まろうとしています。
以下、メコン・ウォッチの後藤歩の解説と、在カンボジア日本国大使に宛てた要望書の和訳です。


カンボジアでは連日、政府による警官部隊を使った住民の強制立ち退きに関する報道が後を断ちません。銃やライフル、電気棒や催涙ガスで武装した数百人規模の警官部隊が、プノンペン市内やシハヌークビルなどで家屋を倒壊し住民を立ち退かせており、抵抗する住民の中には窒息するほど首をしめられ、足で蹴られたり、電気棒で感電させられたり、入院するほどの暴行を受けた人がいます。

また、立ち退きに抵抗した住民8名が拘束され、後に6名が釈放されていますが、残りの2名は「公の財産を破壊し不安を掻き立てた」として依然拘束されています。また、立ち退きがおこなわれている場所へのジャーナリストや人権活動家の立ち入りは禁止されており、既に1名の記者が逮捕されています。

カンボジア政府は、これらの土地に住む住民は国有地に住む違法居住者であり、また町の景観や美化を損ね、社会不安をつくっていると説明しており、「経済発展と貧困削減」の名のもと、強制立ち退きを正当化しています。

人権侵害や居住の問題を扱うカンボジアのNGOはカンボジア政府に対して、土地法に基づき1980年代からその土地に住む人たちの法的権利を認めること、移転計画を開示し被影響住民の詳細な社会経済調査をおこなうこと、暴力の使用をやめることなどを求めてきましたが、全て拒否されています。

住民には適切な補償がされておらず、移転した住民たちは家を失い、騒音や大気汚染にさらされた生活を強いられている人もおり、人道的な扱いを受けていないことが報道されています。カンボジア政府はさらに、プノンペンから数十キロ離れた土地に移転した住民たちにテントや食物など基本的支援をおこなおうとするNGOの活動をとめています。これらの土地には、電気も上下水設備も整備されていません。国連の人権委員会もカンボジア政府に人権侵害をただちにやめることを求めていますが、事態は改善していません。

このような状況の中、7月4日、カンボジアのNGOは、カンボジアに多額の援助をおこなう各国・機関へ要望書を提出しました。要望書には、援助コミュニティがフンセン首相に対して、「貧困削減」をうたうカンボジア政府による強制立ち退きの中止を求め、土地保有が保障され適切な移転政策がつくられるまで、立ち退きをおこなわないことを求めてほしいと書かれています。

この要望書は日本の高橋文明大使以外にも、カナダ、オーストラリア、アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、EU、中国、ロシア、世界銀行、アジア開発銀行、UNICEF、UNHR, UNDP, ILOの大使・関係者に送られていますが、カンボジアのトップドナーである日本の対応に期待が集まっています。


2006年7月4日

高橋文明大使
在カンボジア日本国大使館

カンボジアにおける住民の強制立ち退きの危機の高まりについて

大使閣下

2006年6月13日、NGOは援助国・機関に対して、カンボジア政府の提唱する「貧困削減を目指した」開発政策と、そのカンボジア政府のおこなったSambok Chapコミュニティ(バサック川河口のコミュニティで、プノンペンの最貧困層約2000人が住んでいた場所)の強制立ち退きが矛盾することへの注意をうながしました。
また、2006年6月に開かれた政府ドナー調整委員会(GDCC)の会議に提出したNGOの主張でも、カンボジア政府の立ち退きおよび移転政策が、「貧困削減や弱い人たちのためへの配慮をおこなう」というカンボジア政府の公の場での美辞麗句と矛盾することを証明しようと努めました。NGOは、この6月13日の報告書が援助国・機関を駆り立て、土地所有の保障に関する問題が援助コミュニティとカンボジア政府との対話における優先課題として取り上げられることを望みました。

しかし、結果は望んでいたものとは違うものでした。カンボジア政府は、SambokChapコミュニティ立ち退き問題に対して援助国・機関が何も言わないことに勇気づけられ、たった2週間後にさらなる強制立ち退きを始めたのです。6月29日には、プノンペン中心部のMonivongコミュニティに住む150世帯以上を立ち退かせるため、警官部隊が早朝5時に配置されました。この2日前、Sihanoukvilleの71世帯の家が警官によって倒壊されましたが、知事によれば、これは「貧困削減」のための試みと言います。これら全てにおいて、民間会社の関心が地元コミュニティのそれに勝り、また残念なことにどの立ち退きも、似通った特徴を持っています。

まず夜明け前に警官部隊が配置されること、次にメディア・NGOのオブザーバー・国連監視官のコミュニティへの立ち入りが禁止されていること、そして被影響住民との協議を含む正当な手続きの完全な欠如です。さらに、その他の立ち退き事例も含め、全てにおいて暴力が使われていることも挙げられます。6月30日には、警官がプノンペン郊外のStung Meancheyにおいて立ち退きに抵抗していた家主に発砲し怪我をさせました。また、この1週間前には、Monivongコミュニティの立ち退きにおいて3人が病院へ担ぎこまれ、その中には電気棒で感電させられた妊婦も1名含まれています。

今月はじめに援助国・機関に介入してもらえなかったため、私たちは今、カンボジア全土において貧しい人びとを脅かす無分別な立ち退きを止めることをフンセン首相に促していただきたく、大使のご支援をお願いしています。

最近の立ち退きの事例は、いかにカンボジア政府が市民の基本的人権や土地所有の保障を犠牲にしてまでも民間企業の関心を有利に扱うかを表しています。例えばMonivongの立ち退きは、カンボジア政府と民間企業Royal Groupの間での違法な土地交換の結果です。プノンペン市は、Monivongコミュニティを立ち退かせるのは、(人びとが住む場所にある)病院の土地は「国有地」であり、民間人は所有できないからだと言いますが、この「国有地」は現在、民間会社の所有下に置かれようとしています。この事例や他の似通った立ち退きにおいても、民間会社は貧しい人びとを雇用の機会も基本的サービスも与えずに、平米あたり5ドルから8ドルまたはそれ以下の価値しかない遠隔地に移転させ、自らは1平米あたり500ドルから1000ドルする都心の一等地を手に入れています。

このような立ち退きは、カンボジア政府が約束する「貧困削減」と、その実施との間の明白な違いを表しています。2003年6月、フンセン首相が、カンボジア政府は土地保有権を年に100の貧しい都市コミュニティに与え、その保障を高めると発表しましたが、2003年からカンボジア政府は十分な成果をあげていません。

この3年間に:
・ カンボジア政府は土地保有の保障に関する政策をつくっていない
・ カンボジア政府はいまだに移転政策をつくっていない
・ カンボジア政府は開発や美化の名のもとの立ち退きを続け、促進すらしているのです。

ここ数年の間、貧困削減は、援助コミュニティとカンボジア政府との対話において中心的話題になっています。援助コミュニティは、2003年にフンセン首相が約束した土地保有を保障する事業を支援するため、また国全体で土地保有が保障されるような登記や法整備の改善をおこなうため、相当な額の援助をおこないました。しかし、上述したもっとも最近の立ち退き事例を見ることで、カンボジア政府が本当に「貧困削減を目指した」政策を実現する政治的意思を持つのかどうか、援助コミュニティは疑問を持つべきです。

カンボジア政府による強制立ち退きは、Sambok ChapやMonivongコミュニティだけでは終わりません。数週間後には、全土にわたりカンボジアの市民を立ち退かせる計画が立てられています。プノンペンでは、Sambok Chapコミュニティに隣接したグループ78に住む150世帯が、1980年代からの土地所有を示す書類を持っているにも関わらず、劣悪な移転地に移転するよう言い渡されています。さらに、やはり近隣の広い土地Dayee Krahowmに暮らす住民も立ち退き通知を受けています。その他の州では、状況は恐らくいっそう悪いといえます。特に、KampongCham州、Kratie州、 Mondulkiri州、Pursat州、Stung Treng州、 Siem Reap州、Oddar Meanchey州、Preah Vihear州、そしてKampong Thom州で、立ち退きの通知が出されています。

頻繁な立ち退きとそれらの似通った方法は、貧しい人びとを犠牲にして民間企業へ土地を割り当てようとしている、政府の戦略を示唆します。各州での人びとの立ち退きに使われた最近の命令(*)に加えて、このカンボジア政府の政策は高官レベルで是認されており、カンボジアのあらゆる層の市民が土地保有の保障を享受できるようにする試みを害する危険性があると私たちは信じています。移転に脅かされてきた、または脅かされている非常に多くの人びとは、最終的にはカンボジアに政治不安の要因をつくることになります。(*私有地にするための森林伐採を禁止する命令、2006年5月10日)

私たちNGOは、援助コミュニティは以下のどちらかを選択するしかないと考えます。

(1)カンボジア政府が引き続きカンボジアの憲法および2001年の土地法に違反し、特に住居と適切な生活水準の確保を含む国際条約の義務を果たさないことを認める
(2)カンボジア政府が自ら約束した貧困削減、土地所有の保障、法の支配の厳守をおこなうことを主張する

カンボジアの国民および国際社会がカンボジア国内で広がる強制立ち退きを目撃している今こそ、援助コミュニティはカンボジア政府に下記が確保されることを求めるべきです。

・ 人権に関する国および国際レベルでの義務に沿ったかたちで包括的な住居政策および移転政策がつくられるまで、立ち退きをおこなわないこと・ コミュニティおよび市民社会との協議に基づき、移転者に土地所有権を供与することを目的とした法律が起草されること
・ コミュニティまたは個人の移転プロセスにおいて、暴力や脅しを使わないこと

貴殿がフンセン首相に連絡をとり、フンセン主張が援助コミュニティに約束した貧困削減と土地所有の保障を守ることを促していただけることが、私たちの望みです。あなたの支援により、この深まる危機が回避できるのです。

敬具

Thun Saray
Cambodia Human Rights Action Committee (CHRAC)

Yeng Virak
Housing Rights Task Force (HRTF)

Chhith Sam Ath
Resettlement Action Network (RAN)

■関連情報

  1. LICADHO(カンボジアの人権NGOのプレスリリース)(英文)
  2. Asian Human Rights Commission
    (香港ベースの国際人権NGOのプレスリリース)(英文)
  3. FORUM-ASIA Writes Open Letter to Ms. Louise Arbour, UN High Commissioner for Human Rights on Cambodia’s Human Rights Situation
    (バンコクベースの国際人権NGOForum Asiaによる公開レター。カンボジアへのトッ プドナーである日本の役割を指摘している)(英文)
  4. UN EXPERTS CONDEMN LACK OF RESPECT FOR HUMAN RIGHTS SHOWN IN EVICTION OF BASSAC RESIDENTS IN CAMBODIAN CAPITAL
    (国連のプレスリリース) (英文)
  5. Sambok Chapコミュニティの立ち退き現場の写真

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