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タイ>スラップ訴訟(2)エネルギー企業による訴訟

メコン河開発メールニュース2026年4月23日

タイは日本の投資先として重要な国の一つです。そのタイで近年問題となっている、人びとの公共参加を妨げるための手段として使われる「スラップ訴訟」について、前回はその定義とタイの概況を紹介しました。

タイ>スラップ訴訟(1)公共参加を妨げるための戦略的訴訟とは
https://mekongwatch.org/resource/news/20260420_01.html

第2回は、タイで問題となっている、エネルギー企業による訴訟について各種報道やレポートから紹介します。

ガルフ・デベロップメント社[1](以下ガルフ社)は、同社株の保有によりタイ有数の資産家として知られるサーラット・ラタナワディCEO兼副会長が主要株主の大手エネルギー企業です。ガス火力や再生可能エネルギーによる発電事業の他、近年では通信関連事業への進出でも知られています[2]。日本の電源開発社(J-Power)とガス火力発電事業で複数の連結子会社を有しており[3]、また、ガルフ社の関与する発電事業には国際協力銀行(JBIC)が資金提供した案件が複数あるなど[4]、日本と関係が深い企業です。

タイのメディア、Voice オンラインの2023年6月の報道によれば、同社は2020年ごろから議会やソーシャルメディア上において、ビジネス以外の話題でしばしば言及される存在となっています。理由は、同社の事業に関して発言した出版人、研究者、政治家に対し、名誉毀損で高額な損害賠償を請求する民事訴訟と刑事告発を複数行っているためです。記事では、以下の7件のケースが紹介されています[5]。(注:肩書きは当時。現在1バーツ=約5円)


現在Facebookのフォロアーが17万人に達する著述家で、電力開発にさまざまな提言を行っている民間経済学者のサリニー・アチャワーナンタクン氏[7]のケースは、広く社会的な関心を呼びました[8]。タイ人権弁護士会(Thai Lawyers for Human Rights)もこの件を詳細に紹介しています。発端となったFacebookの投稿内容は、2012年にガルフ社が単独で得たエネルギー入札をめぐり、不正行為や法的な紛争、そして2014年のクーデター後の国家平和秩序評議会(NCPO)が追求をやめた点などを整理して紹介し、その中で、2012年にガルフ社が合計5,000メガワットの電力購入契約を単独で獲得した件につき、透明性が低い独立発電事業者(IPP)入札を批判したものでした。ガルフ社は訴えの中で、サリニー氏が、同じくガルフ社から訴えられているベンチャー氏の投稿にリンクを貼っていることも、同社の名誉を傷つける意図があったと主張しています[9]。その後、両者の合意で、ガルフ社は民事と刑事訴訟を取り下げました[10]。

またベンチャー議員に対する告発は、同氏が2021年2月18日に行った首相への不信任の国会討論での発言をめぐるものでした。この討論の中では、ガルフ社が関与するヒンコンガス火力発電所についても不透明な入札経緯などに言及がありました[11]。ちなみにこの事業には、結果として支援しなかったものの、アジア開発銀行(ADB)と国際協力機構(JICA)が融資を検討しており[12]、最終的に邦銀(みずほ銀行、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行)が融資を行っています[13]。

ガルフ社は2025年8月にも、ナッタポン・ルアンパンヤーウット民衆党党首、スパチョート・チャイヤサット同党議員、ウォラポップ・ウィリヤロート同党議員を、政府のエネルギー政策の乱用と電力料金の高騰について行った議会での発言をめぐって名誉棄損で刑事告訴し、それぞれに民事訴訟で1億バーツの賠償を求めています[14]。

タイでの、36件のケースを分析したClooney Foundation for Justice(2024)の資料によると[8]、訴えの過半数は裁判に至らず、裁判に進んだ件(約40%)も結局、無罪となっています。理由は、名誉棄損の要件をなさない、被告訴人の発言が公共の利益のためで信義にもとづいていたなど、被告訴側が当初から主張していたものでした。しかし、スラップ訴訟の対象とされた人は、結論に至るまで平均でほぼ2年間を費やしており、資源や時間を奪われ、経済的および精神的負担を負わされていたと言えます。

広く公共の利益に関わる大手エネルギー・通信企業が、エネルギーや通信事業に関する公共参加(国会審議、SNS上などの議論)を法的措置を利用し、威嚇、制限している、と国内外から注目されています。国連の「ビジネスと人権指導原則」が求める人権デューデリジェンスを企業が行う中でも、このようなスラップ訴訟の有無の確認は不可欠であると言えるでしょう。

脚注:

[1] 同社は、2025年に通信会社と合併後、ガルフ・エナジー・デベロップメントからガルフ・デベロップメントと改名している。
https://www.bangkokpost.com/business/general/2987341/intouch-shareholders-approve-merger-with-gulf など
[2]Forbes.「タイの電力大手ガルフが通信大手と合併、時価総額4.4兆円の巨大企業誕生へ(2024/10/9)」
https://forbesjapan.com/articles/detail/74245
[3]Jpower. 「J-Power グループ統合報告書(2025)」
https://www.jpower.co.jp/ir/pdf/rep2025/jpower_integrated2025_all.pdf
[4]メコン・ウォッチ. 2005.「国際協力銀行、住民の反対を無視しタイの火力発電事業への融資決定を強行~環境社会配慮ガイドライン違反の疑い~」  
国際協力銀行(JBIC)は「カエンコイⅡ天然ガス焚き複合火力発電事業」の事業者に対して、日本の民間銀行などと協調して約7億1300万米ドル(約840億円、1ドル118円換算)を限度に融資を実行する契約に調印した。  
国際協力銀行. 「タイ王国Gulf PD天然ガス焚複合火力発電事業に対するプロジェクトファイナンス(2019/11/18)」
https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2019/1118-012817.html
[5] Voice Online. เปิด 7 คดี ‘กัลฟ์’ ฟ้องหมิ่น เรียก 100 ล้าน ปมวิจารณ์ค่าไฟแพง-ผูกขาดพลังงาน (「ガルフ」電気料金高騰とエネルギー独占に対する批判を理由に、名誉毀損で7件の訴訟を起こし1億バーツの損害賠償請求)
https://voicetv.co.th/read/FEP4ya1dl#google_vignette
[6]詳細について、以下から追記。
Prachatai. "Same Sky magazine co-founder sued for defamation by a major energy company (2021/12/22) ".
https://prachataienglish.com/node/9617
[7] https://www.facebook.com/SarineeA
[8]ビジネスと人権リソースセンターのデータベースに記載。
https://www.business-humanrights.org/en/latest-news/sarinee-achavanuntakul/
現地メディアの報道  Prachatai. “Gulf Energy Sues Academic for Defamation,” Prachatai English (2023/05/29).  
https://prachataienglish.com/node/10391
Scholars at Risk.
https://www.scholarsatrisk.org/report/2023-05-26-unaffiliated/
[9]Thai Lawyer For Human Rights. "Human Rights Situation Update"
https://www.seiryo-u.ac.jp/u/research/gakkai/ronbunlib/e_ronsyu_pdf/No135/12_watanabe135.pdf
[10]前掲(ビジネスと人権リソースセンターのデータベース)。
[11] 前進党.「พลัง(งาน)ประชารัฐ: คำอภิปรายของส.ส. เบญจา แสงจันทร์ (パラン(ガーン)プラチャーラット:ベンチャー・セーンチャン議員の不信任の討論)(タイ語)」
https://www.moveforwardparty.org/news/2231/
[12]「【プレスリリース】48団体が、国際協力機関(JICA)とアジア開発銀行(ADB)にタイのムアンラチャブリ(ヒンコン)ガス火力 へ融資しないよう呼びかけ(2021/04/27)」
https://sekitan.jp/jbic/2021/04/27/5048
[13]「【声明】 邦銀4行はヒンコンガス火力発電事業(タイ)への融資契約を撤回すべき​​(2022/04/1)」
https://sekitan.jp/jbic/2022/04/01/5494
[14]Prachatai.“Gulf Energy sues People’s Party MPs for Defamation over Censure Debate,” Prachatai English (2025/08/20).
https://prachataienglish.com/node/11515

(文責:メコン・ウォッチ)

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