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ラオス・人権状況>SNSで政府の洪水対策を批判した女性の逮捕

メコン河開発メールニュース2019年10月11日

今年のメコン河流域は、各地で7月までは歴史的な旱魃(かんばつ)、8月中旬からは深刻な洪水に見舞われ、現在も一部地域では被害が続いています。被害状況について、公的機関の発表だけでなく、個人のSNS、特にFacebook(FB)などで情報が行き交っていますが、そのような中ラオスでは、政府の洪水対策に批判を浴びせた女性が逮捕されました。

2019年9月12日、フアイフアン・サイヤブリー(Houayheuang Xayabouly) さんは、FB上の発言を理由に逮捕されました。そして、弁護士の接見や家族との面会も許されない状態に置かれている模様です。ラオス南部チャンパサック県パクセーの刑務所に拘束されている彼女は、9月17日付のVientiane Timesラオス語の報道によると、刑法117条の「反ラオス人民民主共和国プロパガンダ拡散に関する法 (The law on the advertisement of anti Lao PDR propaganda)」を破ったことを自白した、とされています。また、彼女はその行動を国内外の「悪人(ニュース原文のまま)」との共謀によって行なったと認めた、とも報道されています。

フアイフアンさんのFB上の発信を確認したところ、若者らしく自分のファッションや日常の様子を投稿しているだけでなく、洪水被害の状況や自分が救援に行った時の様子、救助を求める情報等を投稿し、多くのフォロワーを集めていました。トンルン・シースリット首相が被災者を訪問した様子を好意的に紹介する一方、9月5日のビデオ投稿では、政府の救援活動を強く批判していました。おそらくこの投稿が原因で、重罪の容疑をかけられているものと思われます。

彼女のビデオ投稿によれば、彼女の家族も被災し、洪水で家財を失ったそうです。そして、救助活動に投入される予算が少なすぎ、「ラオスは、この状況に全く手出しが出来ないほど、貧しい国ではない。なぜ、予算が配分されないの」と、強い口調で18分ほど自説を述べています。また、予算配分がなされないために、多くの被災者が自宅の屋根に逃げ救助されない、救援に向かう現場の軍や警察の装備が貧弱なため被災者だけでなく隊員の命も危険に晒されている、昨年大規模なダム決壊事故があったにも関わらずそこから学んだ備えをしていない、権限がある人たちはなぜヘリコプターの出動を要請しないのか、等と訴えていました。そして、こんなことになるのはラオスにはびこる汚職が根本の原因だと言い、「その給料でなぜ高級車に乗れるのか。そのお金を出し合って、災害救援のヘリコプターを買ったらどう?」と怒りを込めて語っています。

このFB上のビデオの再生回数は、投稿から約1ヵ月で16万8千回を超えています。人口約650万のラオスでは、大変高い視聴率と言えるでしょう。

彼女の発言は、ラオス国内の強い関心を引いたことが再生回数から伺えます。その一方、同国では、このようにはっきりと公に意見を述べる人、特に女性は少ないため、SNS上の非難も激しいようですが、被災者などからは共感の書き込みもあります。

災害救援について責任ある立場の人たちへの感情的で強い口調での批判は、より効果的な救援を求める手段として有効であるかは疑問です。しかし、彼女の発言が「悪人」と共謀し、まるで「国家転覆」を謀ったかのように報じられ、罪に問われるものであるべきとは思われません。汚職に関しても、ラオスの一般の人が日常感じていることを口にしただけのようにも思えます。世界の汚職度を調査するNGO、Transparency Internationalの2018年のデータによれば、ラオスは180ヵ国中132位と低く、ラオス政府自体も汚職が深刻な国内問題であることは認識し、政策課題にもなっています。

前述のように、彼女は逮捕・拘束されてから、弁護士の接見も許されておらず、家族との面会も禁じられています。これは、ラオスの司法手続から逸脱しています。また、洪水対策の問題を非難したことが、もし「反ラオス人民民主共和国プロパガンダ拡散に関する法」に抵触するとなると、今後、洪水被害軽減のために援助機関などがラオス政府と実施する諸事業の大きな妨げになると考えられます。Vientiane Timesの報道によると同法では、「政府のガバナンスが弱いと人々に信じらせること」が罪になるとされています。これでは、洪水被害にあった人や支援を受けた住民が、その抱える問題や不満を自由に発言するのを恐れることになります。そもそもラオスは、国際ジャーナリスト団体、国境なき記者団の発表する報道の自由度ランキング180ヵ国中171位(2019年)で、政府から独立したメディアはありません。洪水対策だけでなく、政府の行う開発事業全般に対し、個人の意見表明がこれまで以上に憚られるようになれば、日本政府や国際機関が掲げる環境社会配慮上の影響住民の意味のある参加にも重大な影響を及ぼす恐れがあります。

日本を含む援助国や援助機関は、彼女の逮捕がきっかけとなりラオス国内での表現の自由が著しく抑制されることを踏まえ、外交ルートを通じ懸念を表明すべきではないでしょうか。

ラオスの人権状況に関しては、国連の人権特別報告者も懸念を示しています。次回のメールニュースでお知らせします。


(文責 メコン・ウォッチ)

 

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