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ミャンマー・ティラワ経済特区>初期対応の失敗で遅れる移転世帯の生計回復(2)  

メコン河開発メールニュース2019年4月12日


日本が官民をあげて進めるティラワ経済特区事業(ティラワSEZ)。日本の三菱商事、丸紅、住友商事が参画するミャンマー・ジャパン・ティラワ・ディベロップメント社(MJTD)が工業区域の開発を行うほか、事業実施前の各種調査は、経済産業省、国際協力機構(JICA)、三商社が実施しました。また、最初の区域A(400ha)の開発に、JICAは海外投融資というスキームで出資をしています。

ミャンマー政府(ヤンゴン管区)は、区域Aの68世帯の住民に対し、補償措置として金銭補償や職業訓練等の生計回復支援を計画しました。しかし、十分な移行期間がなかったことで計画は住民の職業をすぐに補完できませんでした。農地や日雇いの仕事などを失った住民の多くは、移転地周辺で代替の生計手段をすぐに見つけることができず、受け取った補償金を使い切り、借金を余儀なくされた上に返済不能となっている世帯、また、家屋を抵当に入れ、家を失った世帯も出ています。(現在、移転地の家屋を売却した世帯は30にのぼります。うち少なくとも13世帯は借金返済ができず補償住宅を手放しました)。

2014年6月、移転によって貧困となった区域Aの住民2名と、今後移転予定の1名が、JICAの環境社会配慮ガイドラインに定められた、異議申し立てを行いました。JICAガイドラインには、プロジェクトの影響を受ける住民は「相手国等により、十分な補償及び支援が適切な時期に与えられなければならない」「生活水準等が以前より改善、少なくとも回復」など、住民の人権保護をJICAが確認する義務が定められています。申し立てはこれに違反があった、というものです。詳しくは以下をご覧ください。


ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区について移転住民がJICAに異議申し立て


申し立ての概要

異議申し立ては受理され、JICA理事長直属の機関として設置された審査役が調査することになりました。結果、JICAのガイドライン違反は認められませんでした。しかし、住民の生計回復における問題を解決するために、審査役は報告の中で以下のような提案を行っています。

 

PAPs(注:事業影響住民) が移転先の環境に慣れ、安定した生計回復手段を得るには時間を要するため、職業訓練等に加えて、環境変化を緩和する措置を講ずることが望まれる。例えば、希望するPAPsへの家庭菜園の提供や街路樹の植栽の計画等も含め、PAPsの意見を聞いた上でのきめ細やかな対応をJICA は支援することが望まれる。


報告書はこちらです。

 

この報告書が出てから既に4年以上が経過しました。その後居住状況などは改善されたものの、移転住民の生計回復の道は見えていません。その一つの要因に、審査役が提案した、「家庭菜園の提供」が実質的に実現していないことが挙げられます。提案から2年ほど時間がかかったものの、ヤンゴン管区政府は、区域Aの住民に共有地として3エーカー(約1.2ヘクタール)の土地を、移転住宅エリアの裏に提供しました。ところが、この土地をかつて利用していた旧農民が、やはり軍事政権下での補償が不十分であることを訴え、再補償を求めたのです。区域Aの住民は、旧農民との衝突を恐れ、現在(2019年4月)も共有地を使えていません。

旧農民は、ヤンゴン管区政府とこの点について交渉を続けているのですが、ヤンゴン管区政府は補償を口約束しただけで、未だに支払っていません。区域Aの住民は共有地の利用計画を作り解決を待っていましたが、政府やSEZ管理委員会の許可が出ていることもあり、2019年3月に共有地の利用を始めようとしました。しかし、旧農民がその作業を妨害し、作業は中断しています。

この共有地は、住民の生活改善のためにとても重要です。家庭菜園を作って家計の負担を減らすほか、MJTDが提供したマイクロファイナンス資金を活用し、ここで家畜を飼ったり、果樹を植えるなどして収入向上をはかる予定の住民もいます。それができないのです。マイクロファイナンスは、一度住民に提供されましたが、共有地を使えず、準備した苗木を枯らしてしまった人などがでて一部の返済が滞るなど、体制の立て直しも必要であるため、2回目の資金提供は始められていません。企業や政府が生計回復の手段を提供しても、それらの効力は未だに十分発揮されていません。また、土地の補償が絡むこの問題を、住民だけの力で解決することは不可能です。移転から5年の間、住民の生活は改善の入り口に立たされたままで、生計回復支援策の運営などに携わってきたリーダーたちに対する不信も生まれています。

日本が官民をあげて取り組む巨大事業でおきた移転により、日々の暮らしに苦しむ人たちが出て、数年経ってもまだ問題が解決されていません。影響住民には子どもたちも含まれます。親の貧困は、子どもたちが教育を受ける機会や発育に大きく影響します。この状況は、JICAが取り組む持続可能な開発目標(SDGs)の「誰一人取り残さない」という理念にも反します。


SDGsとJICA

遅ればせながらも、提供された機会が住民により十分に生かされ、生計回復に確実につながっていくよう、JICAはミャンマー政府と対話を行うべきです。まずは、移転世帯が共有地を問題なく利用できるよう、JICAが現場の状況改善に本気で取り組むことが求められています。

ティラワSEZの経緯については こちら をご覧ください。

 

(文責/メコン・ウォッチ)

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