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パクムンダム>水門開放と魚

メコン川開発メールニュース2010年8月22日

東北タイを流れるメコン河の支流ムン川に世界銀行の支援で建設され、甚大な漁業被害を引き起こし続けてきたパクムンダム。メコン・ウォッチの木口由香は、このパクムンダムの影響地に、1999年から通い続けています。メコン河開発メールニュースでは、この問題の経緯と最近の現地情報について5回にわたってお届けしています。

前回は、天候の異常によるコメ不足に加え政府が約束していたダムの水門開放が行われていないことで苦境に立たされている村人の現状をお伝えしましたが、今回は水門開放が行われないことで起きる問題についてさらに詳しく解説します。

パクムンダムについてはこちらをご覧ください

第2回:水門開放と魚

ムン川は魚が豊富な川として知られていました。しかし、1994年、河口にパクムンダムが建設されたため、メコン河と連続した生態系は寸断され、ムン川の漁業は壊滅的な影響を受けました。

住民は自然と生計の回復を訴え、1999年からダムの水門開放を求めてきました。3年近くに及ぶ平和的な抗議行動の結果、地元ウボンラチャタニ大学の調査によってパクムンダムの発電量は東北タイにとって重要ではなく、住民の生計を回復するため5年間の水門通年開放をすべき、という提言がなされました。しかし、政治的な駆け引きの結果、住民の希望からは程遠い年間4か月の水門開放という形で決着、住民はその後も運動を続けてきました。

2003年から始まったこの部分的水門開放も、決して自動的に実施されるものではありません。開放は毎年、様々な理由で遅れ、実施が見送られそうになっています。これは、パクムンダムが無駄な事業であることを認めたくない関係機関が政府に働きかけているためだとみられています。そこで住民は政府に約束を履行させるため、バンコクへのデモや研究者の協力によるロビー活動などを毎年行ってきました。今年も、干ばつを理由に水門開放は大幅に遅れました。政府に約束を守らせるために現金収入の乏しい暮らしから、住民は仕事の時間を削り交通費を負担して抗議にでかけるなど多大な「コスト」をかけているのです。

パクムンダムは多目的ダムで、灌漑にも水を使うことになっています。しかし、影響住民の集落は、農業ではなく漁業に依存した生計を営んできました。ダムの影響地のムン川の下流域、特にコンヂアム郡では、岩盤の露出したやせた土地が多く水があっても農業ができる場所は多くありません。また、ダム建設から16年がたっても、予定されていた灌漑用水路は完成していません。さらに、たとえ水と農地があったとしても、水を汲み上げるための電動ポンプ代などに費用がかかるため、利用者が少ないのが実態です。

メコン河下流域(タイ・ラオス国境部分)では、2月ごろに魚が本流から支流に移動し始め、回遊のピークは雨季の始めの5月末から6月です。ダムには魚道が付設されていますが、全く機能せず、水門開放が遅れると魚はムン川にそ上できません。現在、この水門開放の4か月のうち3か月程度が住民にとって主な漁期となっています。水位が高くなりすぎると、住民の漁具では漁業ができないからです。その期間、魚は産卵の機会などを持てると住民は考えています。実際、ダムが魚の移動そのものを妨げることは、産卵地へのアクセスを阻害し、住民が漁業を行うことによる生態系への負担とは比べものにならないほど、漁業資源を劣化させる原因となります。現地の行政機関は住民の過剰な漁業ばかりを問題にしますが、ダムの水門が閉じているより、4か月でも開放する方が、漁業資源の回復が見込めることは一部専門家も示唆しているところです。

ダムの上流約20キロのワンサベン村の前には大きな淵があります。ワンサベンとは「サベン樹の淵」という意味で、淵がそのまま村の名前になっています。ここには流し刺し網の大きな漁場があり、近隣集落の人々が共同で管理し7−8月は多くの漁師が集まってきます。今年の8月2日、漁場を訪れたところ、船を出している人は一人もいませんでした。ワンサベン村のカムフォーンさんは、「流し刺し網はダムの水門を開放しないとできません。水門を開けると様々な魚がとれますが、特にパー・イトゥ、パー・イカム(コイ科の魚、2−3キロに成長)と現地で呼ばれる魚が多くなります。今年は6月に川の魚や貝が死んで浮いてくることが半月ほど続きました。酸素が足りないせいではないでしょうか。ダムの滞水による水質の悪化は深刻です」と漁業だけでなく、河川環境が劣化していることを心配していました。

また、ダムから約30キロ上流のセントー村のサワイさんは、「ロープという漁具を仕掛けているが、魚はほとんどとれない。水はひどく汚くなっていて、川に入ると体中がかゆくなる。ダムができて川岸に繁殖している外来植物の影響かもしれない」と話していました。

完成から16年、パクムンダムは未だに地元漁民の生活とムン川の生態系に負の影響を与え続けています。水門は2か月遅れで漸く昨日(8月22日)開放されました。

(文責:木口由香/メコン・ウォッチ)

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