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タイ・マプタプット工業団地/東部臨海開発>被害住民が日本大使館に要請書簡を提出

メコン河開発メールニュース2010年3月10日

最近のタイ・メディアを賑わせているテーマの一つに、「マプタプット工業団地における新規事業の凍結処分問題」があります。

発端は、2009年9月29日、タイ・中央行政裁判所が東部にあるマプタプット石油化学工業団地で76件の新規事業(投資総額120億ドル)を凍結する仮処分を下したことです。タイ憲法(2006年改定)67条2項は、地元住民に多大な影響を与える開発事業に対して、環境影響評価(EIA)、健康影響評価(HIA)、公聴会、独立専門機関による意見表明の機会を経ない事業実施を禁じています。76事業はこうした手続きを踏んでいないと判断されました。

その後、タイ政府や事業者の訴えで、一部事業の凍結は解除されたものの、依然50件以上の事業が処分を受けたままで、タイ政府は67条2項を実施する法整備を急いでいます。凍結された事業には、日系企業が関与するものもあります。

今回の司法判断の根底には、急激な重工業化にともない悪化の一途をたどる東部ラヨン県マプタプット村と近隣一帯の環境汚染問題があります。住民たちは十数年前から大気や水汚染による環境・健康被害を訴えてきました。1990年代末には悪臭騒ぎで学校が避難・休校となり、「マプタプット公害問題」が全国でも知られるようになりました。結局、この学校は数年後に移転しています。被害住民の視点からすれば、昨年の判決は、司法がようやく自分たちの主張に耳を傾けてくれたことになります。

明記すべきは、1980年代初頭から1990年代にかけて、マプタプット石油化学工業団地を含む東部臨海開発計画(チャチェンサオ、チョンブリ、ラヨン東部3県)に対して、日本政府の開発援助(ODA)が多額に投入されている点です。「マプタプット地区開発」に対する円借款だけでも、3事業、約250億円にのぼります(臨海開発全体では16事業、約1,337億円。ともに1999年6月時点の貸付実行額)。

http://www.jica.or.id/activities/evaluation/oda_loan/after/2000/pdf/jigo00_02j.pdf

今回の判決は、日本政府や進出企業が、これまで地元住民の声を聞き、環境対策などをきちんと実施してきたかを検証する機会であると言ってもよいでしょう。

ところが、昨年末から今年にかけてタイのメディアは、日本貿易振興機構(JETRO)の現地事務所などがタイ政府に対して、「マプタプット問題を早期に 解決しなければ日本の投資がタイから逃げて行きかねない」と発言していると、くりかえし報道しています(注)。被害住民たちは、こうした発言がタイ政府に対して不要な圧力となり、根本的な問題解決にとって有益ではないと反発し、在バンコク日本大使館に対して要請書簡を提出しました。以下では、この書簡(原文英語)を日本語訳でご紹介します。

なお、書簡で「日本モデル」とあるのは、JETROなどが「環境にやさしい工業団地エコタウン開発」と称して、日本の公害管理の手法をマプタプット問題解決に適用しようとする試みのことです。

マプタプット問題をめぐる動きは、日本のODAの今後を考える上でも重要ですし、続報をお伝えするとともに、情報を整備してゆきたいと思っています。なお、2006年に本件を長く監視しておられるタイNGO関係者のペンチョム・セータンさんを東京にお招きした際の報告の資料(一部英語)がありますので、こちらをご覧下さい。


2010年2月18日

小町恭士駐タイ日本国大使
在タイ日本国大使館

Cc: 日本貿易振興機構(JETRO)
日本商工会議所(JCC)
経済産業省(METI)

小町恭士 大使閣下

私たちは、タイ東部ラヨン県マプタプット及びその近郊地域の住民です。東部臨海開発地域、特にマプタプット工業団地で発生している産業公害は、私たちの健康、生計、生活に悪影響を与えております。私たちは、私たちの居住地での環境及び社会状況の悪化という問題が、最も適切かつ生産的な方法で解決されることを希望し、大使閣下に対してこの書簡をお送り申し上げます。

私たちは、タイ法及びその他の公的手続により、地域環境とコミュニティーを守るべく闘って参りました。昨年、私たちの長年の努力が実を結び、行政裁判所が、マプタプット工業団地での多くの新規プロジェクト(当初76件、後に65件に削減)に関し、タイ憲法67条に合致するよう計画が変更されるまで一時的に停止せよとの判決を下しました。

しかしながら、この数ヶ月間、日本貿易振興機構(JETRO)及び日本商工会議所(JCC)は、マプタプット工業団地の問題が6ヶ月以内に解決されなければ、日本人投資家がタイへの投資を停止するかもしれないと複数の公的な場で述べています。このような公的な場での発言はタイ政府に対する無意味な圧力となり、タイ社会がこの問題を解決する適正な方法を見出すことが困難になっております。

第一に、上述の判決は、タイの憲法に関し、同国の高等な司法機関によって言い渡されたものであることにご留意ください。この事実は、JETRO、JCC、そして日本大使館を含むあらゆる関係者が重んじなければなりません。

第二に、日本の政府と民間セクターの両方が、政府開発援助と多額の直接投資を通して、マプタプット工業団地等の東部臨海開発地域の形成において重要な役割を果たしてきました。それゆえ、日本は、マプタプットでの環境及び社会的状況の悪化に責任を持つべきと考えます。ある調査によれば、マプタプットの日本企業は、日本国内で活動する場合よりも緩い環境・社会保全基準で活動を展開しているとの結果も出ています。

第三に、日本大使館、JETRO、JCCは、タイ政府とタイ社会に圧力をかけると同時に、北九州や横浜といった例を、マプタプットにも適用できる工業地域の成功例として提示しています。ご厚意には感謝致しますが、私たちは、そのような「日本モデル」のタイ一般、そして特にマプタプットへの適用可能性に疑念を抱いております。

北九州の事例では、公害は減少したものの、被害を受けた海洋資源等の自然環境は完全には回復していません。マプタプットの多くの住民の生計が地域の自然資源に大きく依存していることを考慮すれば、自然環境の回復は非常に重要な問題でありますが、「日本モデル」はこの問題に効果的に対処していないと存じます。
さらに、科学的データが示唆するように、マプタプットの環境容量はすでに限界に達しています。よって、「日本モデル」により、65件の計画を含むマプタプット工業団地拡大計画が何ら正当化されるものではありません。私たちは、日本が未だに自国の産業公害問題を乗り越えていないことも存じております。水俣病がその例です。日本の裁判所は、最近の判決において、水俣病患者救済方法の見直しを日本政府に命じました。裁判所のこうした介入は、患者たちの長年の闘いによってもたらされたものだということにご留意いただきたく存じます。

私たちは、タイにおける日本の代表たる大使閣下に対し、以下を求めます。

1)タイ社会は、タイ司法制度とその他の手続に則り、最善の方法でマプタプット問題を解決すべきであり、そのために、JETRO等の日本の政府機関や、社会的責任を果たすべきJCC等の機関が、タイ政府及びタイ社会に圧力をかけるのを止めさせるような措置を執ってくださるよう求めます。

2)日本の産業公害に関する経験を、タイ社会にとって有意義且つ有益な方法で活かし、日本が学んだ教訓をタイで活かして下さるよう求めます。そのためには、少なくとも「日本モデル」の提示のされ方を見直し、タイの状況に当てはまるように改善すべきです。その際は、地域住民の参加と、解決策の持続可能性といった原則を重視すべきです。

この書簡を読んで頂いたことに感謝致しますとともに、何卒ご高配賜りますよう、切にお願い申し上げます。

2010年2月18日
スティ・アチャサイ(Sutti Achasai)
東部住民連合(タイ・ラヨン県)
連絡先(省略)

 

注)例えば、地元英字紙『バンコクポスト』(2010年1月7日Jetro seeks quickresolution)は次のように報じている。「タイ政府がマプタプット危機を2、3ヶ月以内に解決しなければ信頼度に傷がつくだろうと山田宗範日本貿易振興機構(JETRO)ASEAN・南アジア主席は語る。山田氏の発言は、昨日チャンチャイ・チャイランルアン工業相とタイの環境問題で会談した後のものである。『今回発生した事態で、タイに対して私たちが抱いている信頼が著しく低下した』と、山田氏はマプタプット工業団地での64事業の凍結問題に触れながら述べた。日本に限らずタイに投資している他の国々も、タイ政府の信頼度には懸念を持っていると氏は付け加えた。『政府は早急に問題を解決すべきで、8ヶ月や1年もかけるのではなく、2、3ヶ月で片づけるべきだ』と山田氏は語った。日本の投資家にとってアジアやASEANにおけるタイの優先度は損なわれてしまったと氏は述べた…(後略)」。

(文責 土井利幸/メコン・ウォッチ、翻訳/草部志のぶ )

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