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カンボジア立退き問題>強制立退きが援助国会合で争点に、日本政府の対応は不明

メコン河開発メールニュース2009年10月22日

カンボジアで激化している強制立退きの問題が、9月29日にプノンペンで開催された、カンボジア政府とドナー国との間の定例会合で話題になりました。

現地からの報道によりますと、この会合でドイツ大使が、「(カンボジア)政府または大企業が貧困層の占有している土地を自分のものにしようとして地域で発生した土地紛争への取り組みが依然として最大の課題のままである」、「(土地紛争のせいで)別の分野で得られつつあるプラスの結果がかすんでしまう」、「(今後も強制立退きが発生するようであれば)われわれの今後の対カンボジア政府支援に極めて重要な影響を及ぼすことになる」などと指摘したのに対し、カンボジア政府側は、「強制立退き」ではなく違法に居住する住民への対策を講じているだけだと反論し、「問題の解決が100%の満足に達しえないこともある」と開き直ったようです。

7月16日に在カンボジア各国大使館や世界銀行・アジア開発銀行(ADB)らが発した「(カンボジア政府に)都市貧困層への立退きの停止を求める」共同声明に日本政府の名前が見えなかったことは、このメールニュースでも何度かお伝えしました。日本政府はカンボジア政府にとって、強制立ち退き問題にうるさいドナーグループとは一線を画す、ものわかりのよいドナーだと思われているのかもしれません。実際、共同声明からほんの2週間後の7月30日、日本政府は大規模な住民移転をともなう国道1号線改修事業第3期無償資金協力の交換公文に署名をしました。

また、10月3日、カンボジア・シエムリアップでの日メコン外相会議に出席した岡田外務大臣は、カンボジアのハオ・ナムホン副首相が、日本政府が無償資金協力を検討している第2メコン架橋(ネアックルン橋)建設計画について触れた際に、「円満な住民移転等の協力をお願いした」と報告されています(注)。

しかし、昨今の強制立退きの激化や人権の侵害は、「円満な住民移転等の協力をお願い」するだけではすまされず、カンボジアの構造的な土地問題に真っ向から向き合わない限り、解決できるものではありません。問題の根本には、住民移転や補償をきちんと実施する法律や制度、また、紛争解決のための手続きが整備されていないこと、さらに、活用されるべき土地法などの法律を行政府自らが遵守していないことがあります。さらに、最近は内外の人権団体から、土地問題をめぐって政府に反対意見を述べる人々を封じ込めようとするカンボジア政府の強権的な姿勢・対応が批判されており、移転住民が反対や懸念の声をあげることがさらに難しくなっています。

道路網をはじめとして、カンボジアのインフラを整備する日本の政府開発援助(ODA)の供与が再開されてから、すでに15年あまりの月日が経っています。この辺でインフラ偏重は一段落。むしろ、これまで遅れてきた国内制度の整備・運用を優先させて、カンボジアの国作りを支援することが日本政府の役割ではないでしょうか?

以下では、9月29日の会合の模様を、現地英字紙『カンボジア・デイリー』の日本語訳で紹介いたします。

土地権利問題が援助国会合の争点に

ベサニー・リンゼイ(カンボジア・デイリー)
2009年9月30日

昨日開催された政府・開発パートナー調整委員会による半期に一度の会合では、土地の権利と「立退き」という表現の定義に関する議論に予定時間の丸まる半分を費やした。

カンボジア政府関係者との非公開会合において、援助国が書いた土地に関する共同声明をフランク・マン(Frank Mann)ドイツ大使が読み上げ、慎重ではあるが手応えのある議論が始まった。

「政府または大企業が貧困層の占有している土地を自分のものにしようとして地域で発生した土地紛争への取り組みが依然として最大の課題のままである。そのため、多くの場合、貧困層の土地収用、立退き、移転をもたらしている」とマン氏は述べた。

マン氏は、グループ78(Group 78)のプノンペンからの立退きを受けて、7月に開発パートナーの多くが強制立退きの停止を求めて発表した共同声明を取り上げた。

氏は発言でその要求を直接くり返すことはしなかったが、カンボジアの土地紛争によって、「別の分野で得られつつあるプラスの結果がかすんでしまう」と述べた。

マン氏はまた、9月4日に政府の中止によって、世界銀行の土地登記事業(land-titling project)が突然早期に終了したことに対して「遺憾」の意を表明し、政府の土地収用法案には公共・市民社会からの意見を取り入れることを求めた。

さらに、マン氏は、政府が今後強制立退きを起こさないよう強く要請し、「こうした個別のケースが起こるようであれば、われわれの今後の対カンボジア政府支援に極めて重要な影響を及ぼすことになる」と述べた。

しかし氏は、今年のダイグラホム(Dey Krahorm)やグループ78といった地域の取壊しに代表される特定の立退きの事例に関しては言及しなかった。また大使は、「何をもって住民移転とするのかに関する政府側の不快感」を表明したチュン・リム(Chhun Lim)氏とともに声明を見直したとも述べた。

実際、イム・チュン・リム国土管理大臣は、援助国声明に対する返答の中で、「立退き(eviction)」という語に対して特に強い異議を表明した。

「(フンセン)首相が、この表現は極めて失礼であり、われわれは『スクウォッター』という語を使うべきであると提案している」と、チュン・リム大臣は述べた。

大臣は、準備された原稿を読みながら、「人々の住居からの『立退き』という語の使用について説明させてもらいたい。この語はスクウォッター、すなわち違法住民の実態と、問題解決に多大な努力を払ってきた当局の目標を反映していない」と述べた。

しかしチュン・リム氏によると、政府は、人々を仮の居住地へと追い立てている一連の状況を考慮に入れ、都市部のスクウォッター居住区に関する政策を作成しているところで、「経済的・社会的必要性に配慮することで、違法居住者の一時的占拠も認めている」と付け加えた。

チュン・リム氏は、カンボジアが近年いくつもの土地紛争を経験してきたことを認めつつも、「現実問題として、多少なりとも…衝突を避けた土地改革はありえない。それゆえ問題の解決が100%の満足に達しえないこともある」と述べた。

議長を務めたキアット・チョン(Keat Chhon)財務相は答弁の中で、政府は土地所有権をめぐる紛争を「十分に承知」しており、深刻な対立を避けるよう最大限の努力を払っていると述べた。「ある地域では一つの火花が燃え広がり、森全体を焼き尽くすこともありうる。しかし、別の地域では火花はただの火花で終わる」。

土地所有権もまた、カンボジアNGOフォーラムが今回の会合に向けて準備した声明で深刻な懸念事項として取り上げた。声明は、都市貧困層の強制立退きに言及し、ブオンコク(Boeng Kak)湖周辺のコミュニティを、土地に対する権利が侵害された可能性のある一つの事例として取り上げた。

NGOは声明で、「居住者の法的地位を決定する目的で全居住者を適切に調査するまで、立退きや住民移転を地域的に一時停止すること」を含めた国家居住政策を立案すべきだと述べた。

昨日の会議は土地問題で持ち切りだったが、出席者たちは、「共同モニタリング指標」として知られる20の開発目標(2008年12月策定)に照らして判断される政府の実績についても議論した。

この開発目標の一つに、カンボジア国民一人ひとりの権利を守るための透明で自立した法制度の確立があり、この議題は、援助国が出したもう一つの共同声明の中で、マーガレット・アダムソン(Margaret Adamson)オーストラリア大使が取り上げた。

アダムソン氏は、4月に開催された前回の会議で援助国が強い関心を表明し、長い間の懸案事項となっていた腐敗撲滅法への道を開く新刑法が国会に提出されたことを称賛した。しかし一方で、氏は、政府に対し国家の裁判制度に係る他の三法案の作成を急ぐようにも要求した。

アダムソン氏は、体制を批判する者たちに対する最近の訴訟や投獄を援助国が懸念していることも付け加えた。

「政府とは異なる意見を持った人々やそうした人々の法的な代表が、法廷で自らの権利に確信を抱けるようでなければならない。開発パートナーは、最近の多くの訴訟を懸念しつつ、全てのカンボジアの人々が例外なく法の下で完全に保護される必要のあることを強調しておきたい」と氏は述べた。

法司法改革評議会(Council of Legal and Judicial Reform)のスイ・モン・リアン(Suy Mong Leang)国務長官は、「われわれは他者の権利が影響を受けない範囲で自分たちの権利を行使できる。例えば、壁を叩いて、叩いて、叩きつづければ、やがて壁は崩れるのだ」と答え、政府は積み残した三つの司法改革関連法にいまだに取り組んでいると付け加えた。

ジャン=フランソワ・デマジエール(Jean-Francois Desmazieres)フランス大使が第三の共同声明を提出し、GDPの6.75パーセントを占めると見積もられた2009年度の赤字予測について、援助国は憂慮していると述べた。

「赤字の大部分は、軍人及び公務員の賃金や手当への出費の大幅増加を反映している」とデマジエール氏は述べ、カンボジアと隣国のタイやベトナムとの間の貿易緩和策についても援助国は注目したいと補足した。

チョン議長は、「政府はまだ年度予算案を完成していないし、貿易に関するアドバイスも民間セクターの人々から聞いているところだ。しかし、われわれはそうした人々の全ての懸念に対応することができないこともある」と答えた。

共同モニタリング指標の全要件項目に対する進捗状態の報告で、カンボジア開発評議会(Council for the Development of Cambodia)のチエン・ヤナラ(Chhieng Yanara)事務局長は、20ある指標のうち11で課題が残っていると述べた。

「主要な課題は、財政的・人的・技術的資源に関わるものである。進展はあった…が、予想していたよりずっと遅かった」。

HIV/AIDSへの対処の向上と、国家森林プログラム(National Forest Program)およびコミュニティ森林プロジェクト(Community Forest Projects)の完了など、一部の指標は大きな制約に直面している。

注)「日カンボジア外相会談(概要)4.経済協力」より(以下のURLで閲覧可能)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/cambodia/visit/0910_gk.html

(文責 土井利幸/メコン・ウォッチ 翻訳 保氣口哲史)

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