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タイ、シーナカリンダム>日本援助のダム、異常放水で洪水を引き起こす

メコン河開発メールニュース2009年9月5日

バン・チャオ・ネン水力発電事業は、タイ西部を流れるメークロン川の支流、クェー(クワイ)川に、水力発電を目的として建設されたダムと送電システム建設事業。
ダムは映画「戦場にかける橋」の舞台となったタイ西部・カンチャナブリ県にあり、旧日本軍建設の泰緬鉄道の鉄橋から、約60km上流に位置しています。実施機関はタイ発電公社(EGAT)、ダムの堤高140m、堤頂長610m、貯水可能量44億立法メートルのロックフィルダム(貯水池は琵琶湖の4分の3に相当)です。この事業は、世界銀行(IBRD)が1974年に7500万ドル、当時の海外経済協力基金(OECF)が有償資金協力で1972年に60億3500万円を融資して作られました。建設には、計画から日本の電源開発(当時、現在はJ-Power)が深く関与しています。バン・チャオ・ネンダムは建設後、王母の名を贈られ「シーナカリンダム」と改名、現在は多目的ダムとして使用されています。

このダムは、2005年ごろから地元で大きな議論を巻き起こしています。ある技術者の情報のリークにより、地震に対するダムの耐性に疑問が生じているからです。地元の住民グループは県などに情報公開を求め、関係機関がダム決壊の場合の洪水被害について検討していることを公開させています。住民は県やEGATと何度も話し合いを持ち、避難計画の策定を強く求めてきましたが、それは未だに完成していませんでした。

そんな中、この8月15日、住民に事前に明確に通告せず、ダムから大量の水を放水し、観光地であるカンチャナブリ県内に広範な洪水を引き起こすという事故が発生しました。地元の観光業界や住民からは、EGATと行政の対応を非難する声が巻き起こっています。また、EGATと天然ガス供給大手のタイ石油会社(PTT)が共同で行った、「ガス送電システムの異常で発電量が下がり、停電を阻止する措置として緊急発電をしたため洪水になった」という事故原因の発表を信用できない、としています。

地元では、このような緊急放水が行われたのは、ダムの欠陥のためではないかという懸念がますます高まり、住民は不安な日々を強いられています。以下は、このいきさつを報道したタイ字紙、『マティチョン』の報道(原文タイ語)です。

EGAT、カンチャナブリのシーナカリンダム放水による損害の補償を認める。
地震には無関係と強調

『マティチョン・オンライン』
2009年8月17日版

タイ発電公社(EGAT)は、シーナカリンダムの放水によって発生したカンチャナブリ県の洪水にかかる被害を補償するという。放水の理由は、ボンコット―ヤダナの発電に問題が発生し広域な停電を防ぐための、電力を補う緊急発電だったという。噂になっているように地震の影響とは関連がなく、ダムは安全だと主張した。しかし、カンチャナブリ住民は警報システムが役立たずだと切り捨てた。ホテルやリゾートも被害を受けている。

EGAT総裁ソムバット・サーンティチャリー氏とカンチャナブリ県知事ルーンサック・マハーウィニチャイモントリー氏、トゥムチャイ・ブンナーク・タイ石油会社(PTT)戦略上級マネージャーは、8月17日共同で記者会見を開き、15日にEGATが行ったシーナカリンダムの放水によって川沿いの世帯、レストラン、リゾートやホテルへ与えた被害について説明した。

ソムバット氏は、EGATが放水を増やした原因を、タイ湾のボンコットガス田、ビルマ(ミャンマー)のヤダナガス田の二つのパイプラインに起きた障害でEGATへ送られる天然ガスの量が失われたため、シーナカリンダムの発電を最大限に上げ広域での停電を防ぐ処置が必要だったとして、次のように説明した。

今回、タイ湾とビルマから発電のためにガスを送れなかった原因は、次の3つにまとめられている。

  1. 2009年8月9〜19日の間、タイ・マレーシア共同開発ガス(JDA)、A18田で通常の点検作業での閉鎖が行われた。そのため、通常のガス量より4億立方フィート/日減産しており、元に戻すのは8月19日であること。
  2. ボンコットの輸送パイプのコンデンセート(訳注:地下ではガス状で、産出時に減圧・降温されて液化する天然ガス)がガス漏れという技術上の問題を起こしたため、全てのガスの生産をストップし安全を確認した。そのため、システムから更に日産6億立方フィートのガスが失われた。しかし現在ボンコットは正常に生産している。
  3. ビルマ国内のヤダナガス田で同じように技術的な問題が発生し、自動遮断装置が作動した。これが15日朝のことだった。そのため、ガスの輸送が止まり、6億立方フィート/日のガスがシステムから失われた。しかし、こちらも現在は正常に生産している。

このような三つの事態が同時に発生したため、EGATは問題解決のため計画を変更し、メーモ石炭火力発電所、ナムポーン発電所、その他民間の石炭火力発電所など他の施設の発電で補い、更に24時間ラオスの発電所からも電気を購入、他の水力発電所から発電し停電を防いだ。これは、国の発電計画の変更やEGATの発電量購入を減少させることから発生したわけではないと明言した。

ソムバット氏は会見のはじめに、カンチャナブリ県と協力して、発生した損害を補償すると述べている。また、(EGATは)影響を受けた国民を直接支援するとともに、被害が起きたことを残念に思っていると語った。また、シーナカリンダムやその他のEGATのダムは強固にできており安全で、噂になっているように地震の影響を受けたものではないと明言した。「発生した損害額についての詳細は、EGATはPTTやエネルギー省と誰が責任を持つか協議するが、EGATが初期の部分に関しては責任をもつ」。

現在、シーナカリンダムの職員とカンチャナブリ県災害予防軽減課が、洪水被害の緊急調査を行っており、ワンダン郡、ムアン郡でルップパヤーリゾート、カムセートリゾートなど多くのリゾート(ホテル)が被害を受けたことがわかっている。ノンブア地区では24店の商店が損害を受けた。ゲンシアン地区にあるカンチャンナブリ・リバークェーホテルリゾート&スパは宿泊棟2カ所、スパ1カ所で被害がでた。

カンチャンナブリ県水上施設・船舶組合(訳注:水上レストラン・ゲストハウスの組合)のノッポン・ターウォンプラディット氏は急激な水位の上昇と強い水流により水辺で商売を営む人々は船やイカダに損害を受けた。被害は川沿いの低地に住む人の家にも及んでいる。同氏は、市は警告を発したがこれほど強い水流となるとは知らなかった。特に、住宅地に警告を発して水を流すのは夜ではなく昼間でなければ避難が間に合わない、と述べている。

現在、国境とタイ湾のボンコットで天然ガスの生産が正常に戻ったため、クェーヤイ川の水位は平常に戻っている。シーナカリンダムは発電機4と5を順次停止した。しかし、カンチャナブリのムアン郡パクプレーク・タンボン行政区リンチャーン村は、メークロン川の支流であるクェーヤイ川とクェーノイ川の合流点にあたるため、水位は上昇している。これは、クェーノイ川にあるワチュラロンコンダムが放水しているためである。このため、サイヨーク郡の低地で、クェーノイ川流域の低地にあるホテルやリゾートに影響が出始めている。

シーナカリンダム責任者のキティ・トンチャルン氏は被害報告を8カ所で受け付けると表明した。(訳注:場所名は省略)

続いてキティ氏は、国民にシーナカリンダムの安全性について安心してもらうため、その真偽を明らかとするとして記者団を案内しインタビューに次のように答えた。重要なのは、シーナカリンダムの強度について点検できることで、100%安全であることは真実だ。検査用トンネルの中の水の染みだしは68リットル/分だ。トンネルの長さは約1300メートルで、水漏れは7カ所、雨水と地下水、ダムの水である。このデータは、工学的にみてダムが安全だ、と保証した。

カンチャナブリ観光組合代表スリン・チャンタピヤン氏は、EGATは国をリードする機関なのだから、「知らせた、言った」と主張するばかりではなく、国際的な水準の通信システムと広報で、ダム下流の影響を受ける住民が準備できるようもっとましな警報システムを提供すべきではないか、と述べている。

「国民の多くはまだシーナカリンダムがこれほど大量の水を急いで放水するのは、ダムの構造に問題があるのか、それともビルマからのガスが途切れたのか、本当はどの理由なのかと疑っている。」

「なぜなら、国の全ての水力発電は全発電量の8%をしめるに過ぎないからだ。どこか一カ所の発電が滞ったことを理由に、EGATがこのように急激かつ大量の放水をして住民の居住地を浸水させることの説明としての重みがない。EGATは真実を述べるべきで、データを隠し、国民を欺くべきではない」とスリン氏は批判した。

自然資源環境省地下資源局地質学環境部アディチャート・スリンカム部長は、カンチャナブリのシーナカリンダムの水門開放によって国民に甚大な被害をもたらした洪水は、一部のNGOがみるように、地震が起こり安全のため放水が必要だったということではないと指摘した。

この地域で(放水の)4〜5日前に地震は常に起きているが、2〜3リクタースケール(訳注:地震の大きさを表す単位)という、ダムに影響しない規模のものだった。特に、シーナカリンダムはダム本体に地震計が設置されており、各機関に警報を発せられるようになっている。警報を出す気象局も地下資源局にも異常は報告されていない。

もし、本当に感じられるほどの地震があれば、EGATが情報を隠すことなどできない。なぜなら、インドのアンダマン諸島やインドネシアのスマトラ島に地震計が数多く設置されており、海外で警報を関知することができるので、タイの国内機関の報告を待つまでもないからだ。

(翻訳・文責 木口由香/メコン・ウォッチ)

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