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ドンサホンダム>各方面から懸念の声

メコン河開発メールニュース2008年4月28日

流域諸国の高い経済成長率や世界的な原油価格高騰を背景に、メコン河流域では電力確保が大きな課題となっています。

しかし、そもそも、どの程度の電力が必要なのか、発電所建設が自然環境や人びとの暮らしに与える影響が十分に考慮されているのか、といった根本的な議論がほとんどなされないまま、昨年来、メコン河本流下流域におけるダム建設計画が急激に本格化しつつあります。

本来、メコン河の共同管理の使命を担っているメコン河委員会も、目立った動きを見せていません。

十分な議論を経ずして、安直に大規模開発を進めようとする動きに対しては、当然のこととして、環境保護団体や専門家が異議を申し立てます。同時に、被害を受ける側の政府関係者からも、不安・不満の声が聞こえはじめてきました。

以下では、Inter Press Serviceが配信した記事の翻訳を通して、メコン河下流ダム計画の中で最も進行の早いラオス・ドンサホンダム計画をめぐる最近の動きと、各方面からあがる懸念の声を伝えます。

ラオスのメコン河ダム建設計画に高まる不安

アンドリュー・ネッティ
ニュース・メコン/Inter Press Service(訳注1)
2008年3月28日

(プノンペン発)今年(2008年)初頭、ラオス政府が同国南部のメコン河本流に計画しているドンサホンダムの建設を推進する決定を下したことで、カンボジアをはじめとする国際社会に大きな不安が広まっている。

ドンサホンダムは、メコン河本流下流域に持ち上がっている八ヶ所の水力発電所建設計画の中で最も進展しており、メコン河開発を管理する責務を持つ政府間機関、メコン河委員会(MRC、事務局ラオス・ビエンチャン)にとっても、一筋縄ではいかない課題となってきている。

カンボジア政府は、この問題をかなり深刻にとらえている模様である。カンボジア政府外務省は、木曜日(3月27日)、フンセン首相がラオスを日帰りで訪問し、メコン河開発に関わる課題について、流域各国の関係者と会談を持つと述べた。

カンボジアのNGOも今週、政府に呼びかけて、ラオス政府がドンサホンダムの建設計画を即時中止し、多国間にまたがる環境社会影響の中立な調査を受入れるよう要請すべきであるとした。

ラオス政府は、2006年3月、マレーシアの土木会社であるメガファーストコープ社(Mega First Corp Berhad)(訳注2)との同意書に署名し、同社にドンサホンダム計画の実行可能性調査を実施する独占権を与えた。

さらに今年2月13日になって、メガファーストコープ社は、ラオス政府と、ダム計画をビルド・オウン・オペレート(BOO)方式(訳注3)で実施する旨の事業開発合意書に署名した。

マレーシア株式市場での発表で、メガファーストコープ社は、ドンサホンダムがラオス・カンボジア国境から2キロ入ったチャンパサック県に建設され、出力240〜360メガワット(MW)の流し込み式ダム(注4)であること、発電した電力は主にラオスとその近隣諸国に販売されることを明らかにした。

この発表はさらに、「ドンサホンダム計画の実行可能性調査と環境社会影響評価によれば、計画は技術的にも経済的にも実現可能である」とも述べている。
しかし、これらの調査は一般には公表されていないとの批判がある。

ドンサホンダムは、メコン河本流でコーンの滝と呼ばれる場所に建設が予定され、この辺りでは、河がカンボジアとの国境をまたぐ地点で複雑な細い水路網(ラオス語で「フー」)を形成している。

ドンサホンダムは、この地点で一番水嵩(みずかさ)があり、メコン河の水位が最低になる4月から5月の乾季の真っ最中でも回遊魚が通過できる唯一の水路、「フー・サホン」をふさいでしまう。

ドンサホンダム計画に反対する人びとによれば、これによって乾季の間、餌場であるトンレサップ湖と産卵場である上流のタイ・ラオスとの間の魚類の回遊が完全に遮断されてしまう。また、ダム付近の下流では水流に変化が生まれる可能性が高く、水位の変化に敏感な魚の回遊行動に乱れが生じる恐れもある。

プノンペンにある世界魚類センター(WorldFish Center)が2007年7月に発行したパンフレット(注5)では、コーンの滝は少なく見積もっても201種の魚類を育み、メコン河でも残り少ない淡水イルカの繁殖地のひとつを支えている。

同パンフレットは、「設計の詳細情報がないので、ドンサホンダムがメコン河流域の漁業に与える影響の全貌をつかむことはできない」と断わりつつも、「入手可能な情報を検討すると、悪影響の及ぶ危険性は非常に高い」としている。

4月から5月にかけて付近を通過する魚類の量の経済的価値を計った例はないが、魚類の専門家は、高いと確信している。

同パンフレットによると、生態が分かっているメコン河の魚類のうち、87パーセントが回遊魚で、その中には商品的価値がたいへん高い魚も含まれている。

専門家たちは、カンボジアの漁獲量のほんの一部が損なわれただけでも、それは何万トン、そして何百万ドルもの魚に匹敵すると考えている。

2007年5月、30名以上の魚類学者が、ドンサホンダム計画に警鐘を鳴らす公開書簡に名前を連ねたが、ここでも、ドンサホンダムは、「とりわけ魚類や漁業に対して、しかし、それに限らず、観光業をはじめ経済や生計に関わる重要な方面に深刻な環境被害を及ぼし、その被害はダムによる総収入をはるかに上回る」とされている。

かつてラオス政府も、問題となっている水路が回遊魚にとって決定的な意味を持つ点をかんがみて、60年代から80年代にかけてしばしば、特にこの地点での漁業を禁止してきた背景がある。

信頼できる筋からの情報によれば、ドンサホンダム計画は、ラオス政府内部でも大きな議論の的であったが、今年2月の事業開発合意書への署名で、この議論にも終止符が打たれてしまった。

ドンサホンダム計画は、2007年11月、カンボジア・シェムリアップで開催されたメコン河委員会の会合でも、激しい論議を巻き起こした。

ある報道によれば、カンボジア代表団は、ドンサホンダム計画に関してラオス政府が透明性を欠いていると主張し、不満をあらわにしたということである。

カンボジア国家メコン委員会(CNMC)代表、リム・キアン・ホー(Lim Kean Hor)水資源・気象大臣は、今年2月の発表を受けて、メコン河委員会がドンサホンダムの影響を調査中で、2008年末に報告書を公表すると語った。

同大臣は、「メコン河委員会は、カンボジアの漁業に生じ得る問題を無視してはいない」、「調査が完了した時点で、利点や問題点を話し合う。ドンサホンダムは、多目的事業なのだから」と述べた。カンボジア国家メコン委員会の職員にもインタビューを試みたが、都合により実現しなかった。

プノンペンにあるカンボジア農林水産省漁業局のナオ・トゥオック(Nao Thuok)局長は、カンボジア・ラオス両国政府 間で、ドンサホンダムの影響について話し合いが持たれていることを認めつつ、「われわれはラオス側に、ダムを建設する前に十分な調査を行うべきだと提案し、ラオス側もこれを了解した。ところが最近になって、ラオス政府がすぐにでもダムを建設する決定を下したと聞かされたので、何がどうなっているのか分からない」と語った。

メコン河委員会は、ドンサホンダムの環境影響評価(EIA)に対する分析と、漁業への影響に関する経済評価を準備したと言われるが、これらの文書は一般には公開されていない。

4月初旬にベトナムで開催される予定の、メコン河委員会の共同委員会でも、この問題について話し合われる模様だ。

カンボジアのNGOは、今週、国家メコン委員会に送付した書簡で、カンボジア政府がドンサホンダム計画の停止を求めるよう要請した。この書簡は、「一旦計画を停止した上で、中立的な立場にある者が、国境をまたぐ環境社会影響について、参加型の手法で包括的な科学的評価を実施すべきだ」と述べている。

書簡はさらに、「この科学的評価の一環として、メコン河下流各国、および影響地域に住む貧困層や社会的弱者にとって、ダムが将来的にどういう恩恵や被害をもたらすかを精査・吟味するための各国間協議、そして公聴会が開かれなければならない」としている。

メコン河本流の上流域では、すでに中国が二基のダムを完成させ、さらに大規模なダム建設も進行中であるが、下流域は現在に至るまでダムの建設を免れている。

メコン河本流の下流域に計画されている八ヶ所のダムのうち、ラオスにはドンサホンダムを含む五ヶ所があり、タイには二ヶ所、カンボジアにも一ヶ所の計画がある。

カンボジア中部では、中国企業がサンボーダムの実行可能性調査を実施しているが、カンボジア政府がこのダムを建設する意思があるかどうかについて、報道は入り乱れている。

今週の現地英字紙『ビエンチャンタイムズ』によれば、タイ・ラオス両国政府は同意書に署名し、これによって、メコン河本流で両国国境に位置するバンコムクンダム(出力1800メガワット)建設計画の実行可能性調査を民間会社が開始する許可が下された。

3月27日、メコン河流域六ヶ国の51団体・個人が署名し、就任直後のメコン河委員会ジェラミー・バード最高執行責任者(CEO)に送付した声明は、「メコン河流域において、成果をもたらし信頼に値する河川流域管理機関が今ほどはっきりと待望されている時はない。その一方で、メコン河委員会は存在基盤と有用価値の危機に直面している」と述べている。

米国の環境NGO、インターナショナル・リバーズのカール・ミドルトン調査員も、メコン河での広範囲におよぶ水力発電所建設計画の今後を考えると、メコン河委員会にとっては出口なしの状態だと言えると語っている。

「仮にメコン河委員会が、各国政府の関係機関に対して、ダム建設計画に批判的と思える所見を述べれば、そうした所見は歓迎されないばかりか、無視され、もはや顧みられなくなる。それは、メコン河委員会が役に立てると自負し
ている政府機関を目の前にして、自らの有用価値を下げることに等しい」、「一方で、本来求められている、客観的で批判的な分析を公表できないのであれば、メコン河委員会はやはり自らが仕えるべきより広範な人びとの目に、そ
の存在基盤を危うくしていると映るだろう」とミドルトン氏は付け加えた。

訳注1 原文(英語)は、
http://www.newsmekong.org/cambodia_concerns_rise_with_planned_lao_dam_on_mekong
訳注2 Berhad(ブルハッド)はマレー語で「株式会社」の意味。
訳注3 「BOO方式」は、途上国のインフラ整備を行う官民協働の一形態で、民間が建設・運転・所有を引き受ける。
訳注4 「流し込み式ダム」は、大量の水を流したまま発電するため、大きな貯水池を持たない。そのため「環境にやさしい」と言われたが、東北タイのパクムンダムによる深刻な漁業被害をはじめ、ラオスのナムトゥンヒンブンダム
による環境破壊など、メコン河流域でも同方式のダムによる被害が現れている。
訳注5 原文(英文)は、
http://www.worldfishcenter.org/resource_centre/DonSahong-final.pdf

(文責・翻訳 土井利幸/メコン・ウォッチ)

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