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メコン下流本流ダム>(2)カンボジア・サンボーダム

メコン河開発メールニュース2007年10月23日

メコン河下流の本流ダム計画が、カンボジアとラオスにおいて、民間投資によって急ピッチで進められています。2007年9月12日から14日まで、カンボジア中部のクラチエ州で、メコン河流域のダム問題に関わってきたNGOが集まって、情報分析と今後の活動戦略などを話し合いました。その中で、自然環境や社会面での深刻な悪影響にもかかわらず、建設の一歩手前まで来ている本流ダム計画があることに参加者の間で強い懸念が共有されました。

このクラチエでの『メコン河下流本流ダムに関する市民会議』に出席したメコン・ウォッチの大澤香織が、会議で共有された情報を翻訳してお伝えしています。

第2回は、「カンボジア・サンボーダム」です。


メコン河下流本流ダム(2)カンボジア・サンボーダム

2007年9月12〜14日
メコン河下流本流ダムに関する市民会議(於:カンボジア・クラチエ)

サンボー水力発電所はカンボジアのクラチエ州、サンボー地方のクラチエの町から北に約35kmのメコン河本流に建設が計画されている。カンボジア政府は数十年間この計画の推進に関心を抱いており、1960年代まで事業のためのさまざまな計画や調査が続けられてきた。しかし政治状況、資金繰り、事業による多大な環境社会影響などの問題のため今日まで計画が実現されることはなかった。

2006年11月初旬、中国南方電網有限責任公司の子会社である広西電力産業観測設計院(Power Industry Surveying and Design Institute)がサンボー水力発電所の新たな実施可能性(F/S)調査を行った。これに先立って中国南方電網は2006年10月、中国南寧で開かれたGMS博覧会でカンボジアの鉱工業エネルギー省と覚書を結んでいる。〔1〕

報道によれば、中国南方電網により進められるこの事業計画には2つの設計がある。規模の大きな計画は1994年に暫定メコン委員会事務局(Mekong Secretariat)によって調査が行われ、発電容量は3300MWであり、880平方キロを水没させる。
より規模の小さな計画では水没は6平方キロ〔2〕で、465MWの発電能力にとどまる。

建設予定地では、すでに企業による地質調査が行われている。周辺の村人は、事業によって引き起こされる可能性のある影響について十分には知らされていないが、事業が進行すれば移転を迫られる人々はもっとも近いハイウェイから20kmも離れた場所に移転させられる。暫定メコン委員会事務局が1994年に行った調査では、3300MWの計画では約5120人の住民がサンボーダムによって移転させられる。

ダムの潜在的な影響

サンボーダムの環境社会影響の評価はまだ行われていないが、メコン河委員会(MRC)漁業プログラムを含む多くの漁業や生態学の調査は、サンボーダムが漁業や漁業に頼った生活様式に与える可能性のある広範な負の影響について指摘している。

本流での水力発電ダムの潜在影響について1994年に暫定メコン委員会事務局が出した評価では、サンボー事業は上流と下流の回遊を阻み、「歴史的な産卵と養育地である地域の魚の数を減らし、パクセー(ラオス南部)やトンレサップ湖の漁業にまで影響を与える」と述べられている。〔3〕

トンレサップ湖の漁業はカンボジアの人々と経済にとってたいへん重要で、カンボジアの年間漁獲量の約60%を占め、その大部分が回遊魚である。世界漁業センター(World Fish Center)とカンボジア国内メコン委員会(Cambodia NationalMekong Committee)による政策ブリーフの中でも、カンボジアの漁業に与える深刻な影響について指摘されている。〔4〕

回遊魚はカンボジアの年間漁獲量の大部分を占めているため、ダムによる変化(回遊の阻害、水文学的な変化と生息地の悪化)はカンボジアの漁業に対して深刻な影響を与えるだろう。わずか数%のダメージであっても、何千トン、何百万ドルもの魚に相当する。

2002年にMRCの漁業プログラムによって出されたテクニカル・ペーパーは、トンレサップの『ダイ』と呼ばれる漁業の魚の少なくとも75%はカンボジア北部(クラチェとコーンの滝の間に当たる区間のメコン河、セサン・スレポック・セコン流域)の川の中の深いくぼ地(deep pool)に頼っている。〔5〕この文書によればサンボーの早瀬とdeep poolは魚の生息、特に産卵と避難のために重要である。そのためサンボー・ダムは回遊魚のストックに「重大な」影響を与えるであろう。その理由は以下のとおりである。〔6〕

・ダムはdeep poolを含む、クラチェとストゥン・トレンの間にあたる計画地の上下流の広い区間にわたって水文と水位を変えるであろう。そのためdeep poolの避難用の生息地が堆積によって埋められ、失われる。

・ダムは南部の氾濫原にある生息地と北部の避難用の生息地との間にある回遊路を断つ、または著しく損なう。

・ダムは稚魚の遊泳システム(larval drift system)を阻害し、水文変化により稚魚が「意図した」目的地にたどり着けないことから、直接的、間接的な死亡率を増加させる。

2003年に開かれた『第6回メコンの漁業に関するテクニカル・シンポジウム』では、ダムが漁業に与える潜在的な影響について「メコン河本流のどの場所でもダムはカンボジアの漁業に対して破壊的な悪影響をもたらすだろうが、ここ(サンボー)は中でももっとも悪い場所である」と、率直に述べる。〔7〕この論文は、メコン河沿いをラオス―カンボジアの国境からクラチェまで25の村の漁民に対してインタビューを行い、deep poolの位置と性格を確認しており、それによればサンボー地方のdeep poolには絶滅の危機に瀕するメコン大ナマズがまだ生息していると述べている。「3つの村(Kos Dam Bong, Pntachea, Outok)の漁民は、この種(大ナマズ)について記録していた。それらはすべてDeep poolが密集するサンボー地方クラチェ州の比較的狭い範囲に分布し、個体は比較的大きいものだった」。〔8〕

クラチェからラオス―カンボジア国境までの区間はdeep pool生息地を有するという意味でメコン河のなかでももっとも重要である。さらに、乾季には多くの回遊魚に逃げ場を与え、またdeep poolは絶滅の危機に瀕しているイラーワディー・ドルフィン(川イルカ)の重要な生息地である。イルカの生息する地域がメコン河のこの区間に広がっていることは偶然ではない。イルカは「ほとんどの時間をdeep poolで過ごし、そこでしばしば回遊魚の群れを追う “捕獲回遊”を行う」。
〔9〕世界自然保護連合(IUCN)はサンボー計画をイラーワディー・ドルフィンと餌となる魚にとっての重大な脅威だとしている。〔10〕Deep pool生息地とそれが支える魚なしではメコン河からイルカは消えてしまうだろう」。〔11〕

巨大な水力発電計画の推進者はしばしば「もし適切に管理されればダムの負の影響は緩和される」と言う。メコン河の漁業に対する負の影響の緩和策は、どこでも、貯水湖での漁業や、魚道の建設により魚が回遊の際、ダムを通過することができるようにするというものだ。しかし、そうした設備を建設したことによるトンレサップ漁業への影響を検証した最近のレポートでは、「長期的には漁業に対する何の積極的な影響もなければ、メコン河流域の効果的な緩和策にもなっていない」と結論づけている。また、このレポートでは、貯水湖での漁業は「たいてい下流の漁業を補償することにはならず」、「メコン河流域で魚道がうまくいったためしはない」と述べられている。〔12〕

2002年に行われたMRCの漁業プログラムのなかでも、回遊魚の多さ(ピーク時には1分間に約5万匹の魚がトンレサップ湖のあるポイントでは通過する)を指摘する。〔13〕

どのような魚道でも、これほど多くの魚の通過にはどうしても影響を与えざるをえない。結果として、メコン河本流や下流の主要な支流におけるダムや堰などの建設を克服できるような魚道技術はない。そのため、本流ではやはり魚かダムか、どちらかの選択を迫られることになる。

脚注
〔1〕China Southern Power Grid to build ASEAN electricity highways,
Guangxi Daily 9 2006年
http://www.gx.xinhuanet.com/ca/2006-11/09/content_8468809.htm
〔2〕Chinese Firm to Study Possible Mekong Dam site, Combodia Daily,
5-6 May 2007/09/22
〔3〕K.T Hill and Susan A.Hil, Don Chapman Consultants, 1994, Fisheries
Ecology and Hydropower in the Mekong River: An Evaluation of Run ?of-the
River Projects, Mekong Secretariat, Bangkok, p.80
〔4〕CNMC and World Fish Center,2007, Infrastructure and Tonle Sap
fisheries: How to balance infrastructure development and fisheries
livelihoods? The challenge facing decision-makers in Cambodia, Policy
Brief, p.3
〔5〕MRC Techinical Paper No.8 October 2002, “Fish migrations of the
Lowe Mekong Basin:implications for development, planning and
environmental management”
〔6〕Ibid.p.55
〔7〕Chan et al.2003. “Using local knowledge to inventory deep
pools,important fish habitats in Cambodia, in :Proceedings of the 6th
Techinical Symposium on Mekong Fisheries, Lao PDR 26-27 November
2003,p.65
〔8〕Ibid.p.63
〔9〕Poulsen, A. et al. 2002. Deep pools as dry season fish habitats in
the Mekong Basin, MRC Techinical Papter No.4, MRC Techinical Peper No.4,
MRC, Phnom Penh, p.10
〔10〕http://www.iucnredlist.org/search/details.php/44555/doc
〔11〕op cit.9,p.10
〔12〕Baran E., P.Starr,and Y.Kura.2007. Influence of built structures
on Tonle Sap fisheries.Cambodia National Mekong Committee and the World
Fish Center.Phnom Penh,Cambodia,p.24
〔13〕Sverdrup-Jensen,S.2002. Fisheries in the Lower Mekong
Basin:Status and Perspectives./ MRC Tchinical Ppaer No.6 MRC, Phnom Penh,
p.77

 

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