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ラオス・セカタムダム>ダムに翻弄され続ける少数民族

メコン河開発メールニュース 2006年11月10日

関西電力が経済産業省のODA資金で実施可能性調査を行ったラオスのセカタムダム計画は、別のダムで生活を奪われた少数民族ニャフン族の暮らしを再び脅かすことが懸念されています。

経済産業省には環境社会配慮に関わるガイドラインなどはなく、ODAを使った調査であるにも関わらず、影響住民であるニャフン族への配慮が行われていない、現地ステークホルダーへの説明責任が果たされていない、調査方法やスコープが不明確、適切な情報公開がなされていないなど、様々な問題を含んでいます。

セカタム水力発電ダム

以下は、現地調査を行ったメコン・ウォッチの東智美の分析です。


ラオス南部のボロベン高原を流れるセカタム川に、ダム建設が計画されており、現在調査が行われている。この計画によって生活や文化に大きな影響を受けることが予想されるのが少数民族・ニャフン民族の人々である。

ニャフン民族は、焼畑耕作を行いながら、村の場所を移動してきたモン・クメール系の少数民族で、現在は、ラオス南部のボロベン高原(チャンパサック県とアタプー県)の21村に、約5000人しか存在しない(出典:現地での聞き取り及びDepartment of Ethnics, Lao Front for National Construction (2005) “TheEthnics Groups in Lao P.D.R.”)。

○ 第一のダム計画:ホアイホー水力発電事業

ニャフン民族の生活に大きな被害をもたらした最初のダム建設事業が、1998年に韓国企業「大宇」の投資によって建設されたホアイホーダムである。ダムの水没地や流域に住んでいた約2500人のニャフン民族とジャル民族の人々が移転を強いられた。移転地には、十分な耕作地がなく、清潔な飲み水の供給も行われなかった。また、先祖代々の土地やコミュニティから引き離され、ばらばらになった多くの村人は慣習的な行事などを行わなくなっていったという。

ホアイホーダムで移転の対象になったニャフン民族の村は12村であるが、うち2村は移転を拒否し、現在もダムの水源林での焼畑耕作を続けている。また、現地からの情報によれば、移転させられた10村でも、農地の不足から約70%の村人が元の村に戻って生計を立てている。しかし、学校に通う子供たちは移転村に残らざるを得ないため、ダムによって家族が離れて暮らさなくてはいけない状況が生まれている。

○ 第二のダム計画:セカタム水力発電事業

このニャフン民族の暮らしを、新たなダム計画が脅かそうとしている。関西電力が計画しているセカタムダム建設事業である。

2006年2月に関西電力が経済産業省のODAを使って完成させた「タイ国輸出用ラオス国セカタム水力発電事業可能性調査」によれば、セカタム川の支流のナムホン川にロックフィル式の貯水ダム(貯水池の湛水面積7.6平方キロメートル)、セカタム川にアースフィル式の副ダムを建設し、セカタム川から貯水ダムへ導水を行う計画である。発電能力は60.8メガワット、年間発生電力量380GWhで、発電された電力の大部分は隣国タイに輸出される。

計画では、253ヘクタールの水田が水没する。報告書には明記されていないが、焼畑地や家畜の放牧地、菜園なども水没することになるだろう。適正な移転地の有無や移転後の補償についても記載されておらず、影響地域に暮すニャフン民族の人々の生活手段の喪失について、適切な配慮が見られない。また、ダムが建設されるセカタム川とナムホン川、下流のセナムノイ川では、水量・水質が変化することで、地域住民の漁労や生活用水の利用にもネガティブな影響を与える可能性が高い。

○ ダムに翻弄され続けるニャフン民族

この計画では、ホアイホーダムの移転住民も影響を受けることになる。2001年に作られたホアイホーダムの移転村では、村人は移転村の近くの森で焼畑耕作を行っている。ところが、今年になって、一部の焼畑が制限されるようになった。村人は「セカタムダム建設事業のため」との説明を受けている。ホアイホーダム事業によって、一度生活を壊された移転村の村人は、さらにセカタムダムによって二重に生計手段を奪われようとしているのである。

国際協力機構(JICA)や国際協力銀行(JBIC)の環境社会配慮ガイドラインであれば、「プロジェクトが先住民族に影響を及ぼす場合、先住民族に関する国際的な宣言や条約の考え方に沿って、土地及び資源に関する先住民の諸権利が尊重されるとともに、十分な情報に基づいて先住民族の合意が得られるよう努めなければならない」との記載がある。しかし、経済産業省のODAが使われている同事業の事業可能性調査では、ホアイホーダム建設事業との累積的な影響について考慮されていないばかりか、「ニャフン民族」の民族名すら記載されていない。「プロジェクト地域内の6ヶ村には、すでに融合した文化が存在するが、今なおラオスの主要文化と個々の民族文化の統合過程が見受けられる。・・・現状の文化形態からみて、住民に対し、今後外部からの文化経済の影響を受けなくさせることは不可能であり、社会経済的な手段による、なんらかの適切な方法が必要とされる」(p.74)との記述からは、プロジェクトが少数民族の文化や生計手段に与えるネガティブな影響を無視し、むしろそれを肯定しているように受け取れる。

影響住民の文化への影響と緩和策については、「6か村は貯水域に位置しているわけではないので、地域住民の文化、歴史および考古学は、プロジェクトによって直接的な影響を受けないであろう」(p.82)としている。しかし、水田・焼畑地・家畜の放牧地が水没し、セカタム川やナムホン川、下流のセナムノイ川では、漁労や生活用水の利用にネガティブな影響を受けるのであれば、移転を伴わなくても、村人が生計手段の変更を余儀なくされることは必至である。そうなれば伝統的な慣習や文化の面でも変化は避けられないだろう。それでも地域住民の文化に直接的な影響はない」と言い切れるのはなぜだろうか。

このままダム建設が実現されれば、ニャフン民族の人々は、社会・経済・文化それぞれの面で取り返しのつかない深刻な影響を受けることになるだろう。

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