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タイ揚水発電>深刻な対立を生むODA事業

日本のODAと世界銀行の融資で建設されたラムタコン揚水式発電所について、タイの英字新聞でかなり大きな特集記事が組まれました。

以下、メコン・ウォッチの福田健治の解説と翻訳です。


ラムタコン揚水式発電所はタイ中部ナコンラチャシマ県に日本のODAと世界銀行の融資を受けて建設された水力発電所です。揚水式発電所は2つの貯水池の落差を利用して発電するのですが、上部池建設の際に大規模な爆破作業が行われ、周囲の村に健康被害や家畜・農業への影響が生じています。住民は呼吸器系の疾患や皮膚病に苦しんでおり、すでに事業は完成していますが、事業者であるタイ発電公社は健康被害への補償を拒否しています。

政府との直接対話が進まない中、タイの1997年憲法で新たに設置された国家人権委員会が、住民とタイ発電公社間の調停に乗りだしています。今後、人権委員会が問題解決のための勧告を行うことが予定されており、タイ発電公社や資金を供与した日本政府・世界銀行の対応が注目されています。

以下はバンコクポスト紙の日曜版で大きく取り上げられた記事の翻訳です。

深刻な対立を生み出すタイ発電公社のプロジェクト

バンコクポスト、2005年2月13日

タイ発電公社(EGAT)と、EGATによるラムタコン揚水式発電事業による影響を受けたと主張する村人との争いが続くが、両者ともに譲歩しようとしない。 (SUPARA JANCHITFAH記者)

ナコンラチャシマ県カオヤイティアン村の住民が、近隣のラムタコン水力発電所建設による悪影響を訴えるのを聞いても、多くの人は話を信じることができず首をかしげる。貯水池を建設するための爆破作業によって生じた粉塵が、地域の人々の健康と環境を害するなどとは思えないからだ。

水力発電所の前所長であるRewat Suwankiti氏は、「採石や他の事業で広く使われている普通のパワージェルを使った通常の爆破作業に過ぎない。どうして住民の一部にそんな問題が起こりうるというのだ。村人の全てではないのはどうしてなのか」と疑問を呈する。

しかし、パワージェルの成分や2年7ヶ月間の丘の爆破作業の際に使われたパワージェルの量について問われると、Rewat氏は回答を拒否した。

建設現場から最も近い2つの村の一つである第10村の住民のRiam Thongkaewさんは次のように話す。「貯水池の大きさを想像してほしい。貯水池は280ライ(訳注:44.8ヘクタール)の広さで、深さは50メートルもあり、丘の上に位置している。爆破作業は1日に2回行われていた。丘の山腹に設けられた長いトンネルを想像してほしい。そして、粉塵がどのように私たちの村に降り注いだか考えてほしい。風が強い日は、さらに多くの被害を受けたのだ。」

第6村と第10村の住民の多くが、爆破の始まった1995年12月以来地域の環境が変化してしまったと思っている。住民は普通に呼吸することができず、また全身を覆う発疹も多く見られるという。しかし、村人の中にはこれらの主張に同意しないものもいる。

「粉塵は1日2回しか降らなかった。有毒の粉塵を含む水を使ったから発疹が出ているというが、あれは実際には麻疹によるものだ」と、第6村の村長であるUthai Sangjanthuk氏は言う。

しかし多くの村人が、爆破作業の開始以来、健康問題についてEGATと協議していたが、当時はEGATを非難していたわけではない。

「あの時点では、私たちは呼吸器系の病気や全身の発疹の原因を知らなかった。私たちはEGATに助けを求め、EGATは医療チームを派遣した。医療チームは鎮痛のためのパラセタモールと発疹のためのカラミンローションを処方した。いつももらっている薬だった」と、第6村住民のManee Sawasdeeさんは語る。

■症状は悪化

その後、病状は深刻化し、原因不明の死亡者までが出るようになった。村人は病理解剖についてはほとんど知らず、これらの死亡と休みなしの1日2回の爆破作業との間の関係について検討しようとは考えなかった。

Riamさんは「私の父は昼の礼拝のために手を洗っていた時に亡くなった」と言う。「おそらく父は警告音や爆発の騒音でショックを受けていたのではないか」と彼女は推測している。

「確かに私たちは医者ではないから、確かなことはいえない。本当の医者でさえも、私たちの村での死や病気について何も教えてくれない。」

建設現場で働いていた労働者にも死者が出ている。死者の一人であるRang Bangprakonさんは、バンコクの環境事故・化学汚染の専門家であるOrapan Metadilokkul医師の下で、肺の検査を受けたことがある。「Orapan医師は、Rang さんの肺は完全にやられていて治療のしようがないと言っていた。バンコクから戻って2週間後に彼は亡くなった」と、第6村のYuan Songnokさんは言う。

Yuanさんの夫も爆破作業の時期に建設現場で働いていた。「夫の具合もよくないが、Rangさんほど悪くはない。だが彼は呼吸をうまくできないし、いつも疲れている。」

環境・職業健康室のChantana Padungtes医師によれば、村人の症状は様々な原因から生じたものである可能性があり、また村人は一人ひとり有害物質に対して異なる耐性を持っているし、免疫系も違うという。

「EGATは、爆破によって病気になる人がいるなら、なぜ村中全ての人が病気にならないのだ、と問いつづけている。正直なところ、私には分からない。しかし、バンコクの大気汚染によって全てのバンコクの住民にアレルギー症状が出ないのはなぜだろうか」とYuanさんは尋ねた。

原因不明の死を遂げた多くの人たちが、HIV感染者であるとのレッテルを貼られた。「これは死者とその家族に極めて不公正だ。亡くなった人たちの死亡には誰も責任を取ろうとせず、さらに虚偽の事実を根拠に非難されている」とManeeさんは言う。村人は皆、エイズの末期症状がどのようなものか知っている、とManeeさんは付け加えた。

村人の度重なる苦情の末、1998年12月、ついにEGATは両村の村人の診察を行うために再度医療チームを派遣した。診察を受けた268人中、皮膚病にかかっているのが145人、呼吸器系の疾患が98人、胃の疾患が3人、健康な人が22人だった。

爆破から7年が経った現在、幼い子どもの一部と大人の多くがいまだに喘息のような咳や他の呼吸器障害に徴候に悩まされており、また発疹などアレルギー症状にかかっている村人もいる。

■国家人権委員会の関与

 1997年ごろ、村人は周囲の環境が変化してきていることに気付いた。木々は実をつけなくなり、植物は枯れてしまう。家畜は変死し、これは汚染された水を飲んだためだと村人は考えている。牛は爆発に驚き乳を出さなくなった。しかし、こうした村人の苦境の原因について誰も調査を行わなかった。

 EGATは、何ら間違いは犯しておらず、村人の話は作り事だと常に主張している。「村人は嘘をついている」とRewat前所長は公然と言う。しかし影響を受けた村人にとっては、苦しみは動かしがたい事実である。

 村人たちは多くの政府機関に請願書を提出し始めた。2001年に首相府前で貧民フォーラムと共同で行った抗議活動の末、タクシン政権は問題を検討するための委員会を設置した。しかし関係機関との会合や議論は、村人にとっては出口がないものに思えた。

 ラムタコンの問題について調査を行い住民とEGAT職員・理事会を巻き込んだ問題解決のプロセスを進めていた国家人権委員会は、村人が日常生活を取り戻すことができるよう仲介を行うという提案を行い、村人は希望を持った。

 村人が抱える問題について再度EGATの幹部と議論する場を設けるとの国家人権委員会から手紙を受け取り、カオヤイティアン村のRiamさんや他の村人は喜びに沸いた。

しかし昨月行われた国家人権委員会の事務所で行われた長時間の議論の後でも、要求が聞き入れられるかどうかは村人にも明らかでない。

 「EGATはまたもや問題の解決を延期している」とRiamさんは言う。

 実際、EGATの副総裁であるSophon Kruntham氏は、公社が要求に応じる気配すら見せなかった。彼は要求が「いつもどおり」だという。

 「事業の建設が村人の問題を引き起こしたというのは、重大な責任だ。もし補償すれば、EGATが不法行為を犯し、事業が村人の死や病気を引き起こしたことを認めることになる」とSophon副総裁は語り、それはEGATとしては認められないと述べた。「村人はEGATに対する非難を証明すべきだ」とSophon副総裁は繰り返した。

 しかし、Sophon副総裁や他のEGAT関係者は、正当な理由さえあればEGATは補償を支払うことを回避しようとしたりはしないと主張する。

  「私たちは日常的に地域住民を支援している。村人は影響を受けたことを立証すべきだし、立証したとしても全員が補償を受けられるわけではない」とSophon副総裁は語った。

 国家人権委員会のSunee Chairos委員は、これまでEGATは症状の軽減しようとしてきただけで、真に中心的な問題に対処しておらず、例えばEGATは職業訓練を実施したが、岩盤の爆破の周囲で生じた健康問題については考慮してこなかった、と述べた。

「多くの地域で、採石のようなもっとずっと小規模な事業においても周辺住民に健康被害が生じている」と彼女は言う。「非難の応酬は止め、現在目の前にある影響に目を向けるほうが望ましいのではないだろうか」。

 Sunee委員は、EGATは多額の資金を広報活動に支出していると指摘した。「EGATは人々の誤解を避けるために大金を投じている。カオヤイティアン村のあちこちでEGATが始めたプログラムのせいで、(村人に補償するより)より大きな費用がかかっている」とSunee委員は付け加えた。

 EGATやRewat前所長は健康問題に関する医療調査が実施されない理由をよく知っているはずだ、と彼女は言う。EGATと村人の間の会合で、EGATは村人の健康問題を診断する委員会のメンバーにOrapan医師が入ることを拒否した。

 EGATはこれまで血液検査が実施されるべきであると主張してきた。Chantana医師によれば、粉塵によって生じた症状を抱える患者を内科医が診断することは極めて困難である。

「被害は重金属によって生じたわけではないから、血液検査によって証明するのは極めて困難だ。私は村人が病気でないとは言わないが、村人が粉塵に曝されたのは7年以上前であり、病気の原因をたどることは困難だと思う」と公衆衛生に関わる公務員であるChantana医師は言う。

 EGATは環境影響調査を行うためにスラタニ工科大学を雇用している。EGATは同大による調査の第2フェーズの報告書を入手しているが、最終報告書を待たなければならないとして、これを公開することを拒否している。

 匿名の独立機関によれば、2つの村の表土のカドミウムと鉛の含有量は東北地域の通常の値の10倍である。「水中にも珪石が0.1〜1.4ppm含まれている。標準値は0.1ppmだ」と、調査機関の関係者は語る。

 EGATは、ラムタコン事業における不当労働行為や義務違反による不法行為により賠償金を支払うよう判決を受けた場合の、組織の評判や将来を危惧している。これが、EGATが職業訓練プログラムを強調し法的責任の可能性を減じようとしている理由である。

 「病気になり医者に定期的にかからなければならない住民についてはケースバイケースで考慮する」とSophon副総裁は繰り返した。

■EGATは住民との紛争を解決すべきだ

EGAT理事会のメンバーであるLae Dilokvidhyarat博士は、国家機関であるEGATを国民が所有しているという実感を人々が得られるよう、できる限りのことを行う義務があると言う。「この目標を達成するために、EGATは人々との紛争をできるだけ早く解決すべきだ」と彼は語った。彼はこの問題を定期的に議論するための委員会を設置するべきであると提案している。

 「ラムタコンのケースの場合、私たちは誰が正しいとか間違っていると指摘したりはしない。私たちはただ解決策を探すべきだ」と、タイの労働問題の専門家であり学者であるLae博士は言う。

 彼は「互いに助け合い、人々と発電所が平和的に共存できるようにすべきだ」と付け加えた。「私たちは実際に起きた被害について考えるべきだ。影響を受けた人々を直視するべきだ」と強調する。

 (人権委員会の)Sunee委員も、爆破の段階に戻ることは不可能であることは十分理解している。「爆破当時に調査が行われば、(貯水池建設が原因であることを)立証するためのより確かな証拠が得られただろう。工事は終了し、しかし人々は未だに病気に苦しみ、環境は被害を受けた」と彼女は付け加えた。

 多くの学者が国家人権委員会に対し、建設から7年後にEGATの責任を立証することは非常に困難であると認めていると彼女は言う。また耐性が異なるため症状も人によって異なり、多くの人々が肺関係の病に倒れ検査を受けることなく亡くなってしまった。

  EGATが建設時には後に問題になると予測していなかったにも関わらず生じた問題は数多くある。その一つが、上部貯水池からの漏水による大量の水のロスだ。

 EGATは最終的に問題を修正するためにビニールシートを貯水池の底に敷き詰めなければならなくなった。Rewat前所長は、EGATがこの手痛いミスについて予見していなかったと認めている。

 日本政府の援助による開発プロジェクトを調査しているNGOであるメコン・ウォッチによれば、環境影響評価中の環境緩和計画では、粉塵による公害を防ぐために、爆破作業は1日2回ではなく1回に限定されるべきと提言されている。

 EGATはバンコクポスト紙パースペクティブ欄からの要求に対して、緩和計画のコピーを公開することを拒否した。Rawat前所長は、そのような条項は存在しないと言う。

 多くの村人が現在問い掛けているのは、EGATが予測せず認めようとしない潜在的に危険な状況はあといくつあるのか、そしてEGATはいつ説明責任を果たすのか、という問いである。

■村人の要求

村人はEGATに対し、(爆破関連の症状により死亡した場合には)死者一人あたり20万バーツを支払うこと、モー6村の27世帯及びモー10村の64世帯に対し医療費を支払い将来にわたり健康状態の管理ができるよう建設によって生じた健康被害への補償を行うこと、を求めている。

・EGATは、農業や他の職業への被害と健康被害を受けた住民のリハビリテーションのため  に、各村に1000万バーツの補償を行うべきである。村人によれば、職業プログラムのため  にEGATが以前提供した資金は、多くの村人がEGATが導入したが売り物にならないプログ ラムのために投資し、返済不能となっている。

・EGATは各村の住民に清潔な水を供給するべきである。これは、事業の建設にともない山  にあった源流が枯れてしまったためである。

・EGATは村人に、電気を無料で恒久的に提供するべきである。

■ラムタコン発電所の背景(省略)


【ラムタコン揚水式発電所について(メコン・ウォッチのサイト)】

http://www.mekongwatch.org/env/thailand/ramu/index.html

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