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メコン上流浚渫>あまりにずさんなEIA
メコン河開発メールニュース 2003年1月11日

150トン級の船がメコン河上流を年中航行できるようにするための浚渫工事(早瀬爆破)に関するニュースです。3年に分かれている第1フェーズの2年目が始まり、タイからの情報によれば、ビルマーラオス国境で早瀬と浅瀬の爆破が行なわれているようです。

以下は少し古い新聞記事ですが、今回の工事の根本的な誤りである環境影響評価について、バンコクのNGOであるTERRAのリサーチャーのデイブ・ハベル氏が、タイの英字新聞に書いた分析記事です。この問題に関心を持っている方には、大変参考になると思います。

メコン・ウォッチでボランティアをしている山口健介さん(東京大学学生)の翻訳です。

オピニオン/メコン:Wrong Blasted Way(誤った爆破の道)

by デイブ・ハベル

2002年11月28日

ネーション

設立後わずか数週間で、タイ天然資源環境省(MNRE)は論議を呼んでいるインフラ事業を支援する立場をとってしまった。メコン河上流域での商業航行路改善事業(地元チェンライ県では「メコン早瀬爆破事業」と呼ばれている)によって、ビルマーラオスおよびタイーラオス国境沿いを流れるメコン河の21の早瀬と浅瀬の爆破・浚渫が予定されている。

先週、Sophat Tovichakchaiku氏(タイ天然資源環境省水資源局水問題防止センター所長)は、早瀬爆破による悪影響についてはすでに実施された環境影響評価(EIA)において示されなかったことを根拠に本事業が実行されるべきであるとの見解を発表した。

その環境影響評価報告書によれば、合同環境影響評価団および詳細調査団は、「細部の調査および水文データの収集を目的としてそれぞれ2001年4月18、29日に上流域沿いの予定地(10ヶ所の早瀬と1ヶ所の浅瀬)に赴いた」。換言すれば本事業の環境影響評価で行われたフィールド調査はたった2日間だけだったということだ。

おそらく最も調査されておらず最も知られていないメコン河の生態系について、この2日間のみ「環境評価」をもとに、環境影響評価報告書は、ラオス、タイにおけるメコン河の漁業およびそれに生計を依存するコミュニティーに、長期的な悪影響は生じないと結論づけている。実際には、環境影響調査はこうした潜在的影響を検討してはいない。

航路改善事業(早瀬爆破事業)によって最大の被害を受ける一方で最小の利益しか享受できないラオス政府が、メコン河委員会(MRC)事務局に対して本事業の環境影響評価の再検討を要請したのは驚くべきことではない。

要請を受けてMRC事務局はオーストラリアおよびニュージーランドの研究機関に本事業の環境影響評価報告書の審査を依頼した。

ニュージーランド国立水大気研究所のRM McDowall教授による報告は以下の通りだった。「本事業の環境影響評価報告書を読めば、開発予定地における魚相および魚の生態系を判断するためだけでなく、本事業(商業航行路改善/早瀬爆破事業)がそれらの生物学的価値に及ぼす潜在的な影響を測るためのはっきりした努力がなされていないことは明らかである。はっきり言えば、環境影響評価報告書は全体として明らかに不適切なものである』

オーストラリアのメルボルン大学のpian Finlayson氏によれば、ラオスの科学技術環境庁アセスメント規則第12条第2項は、「(環境影響評価)報告書は、事業の環境影響を特定し記述すると同時に、1つもしくはそれ以上の妥当な本事業の代替案についてもその環境影響評価を行い本事業の評価と比較検討する」ことを求めており、「・・・ラオスの国内法で求められるようなことが、この環境影響評価報告書では検討されていない』。

タイでは、本環境影響評価の過程および商業航行路事業は、憲法を部分的に侵害している。その中には、条文で認めている地元の天然資源に関する意思決定と管理へのコミュニティーの参加権利が含まれている。

上記専門家たちは、審査報告書をがメコン河委員会事務局に提出し、事務局は、それをラオスとタイの政府に送った。今のところ、どちらの政府もそれについて何の反応も示していない。

この無反応な状態は、早瀬爆破事業により影響を受けることが予想されるメコン河流域の何千という家族の生活を危うくしている。これらの早瀬は、こうした家族の食料確保に重要な役割を果たしている魚や他の水生動植物の大切な生息地なのである。

現在計画されている商業航行路の設計によれば、早瀬で爆破された何千トンもの岩礁は、河の中の深いくぼ地(ディープ・プール)に捨てられる。深いくぼ地は、メコン河上流の魚にとっては乾季におけるきわめて重要な生息地であり、それゆえ近隣の集落の人々にとっては絶好の漁業場となっている。爆破された岩礁によってくぼ地を埋めることで、メコン河上流域の漁業および川沿いに住む何千もの漁業に従事する家族たちは、深刻かつ半永久的な影響をこうむることになる。本事業における環境影響評価ではこれらのことが何も考慮されていない。

2002年4月、メコン河委員会の漁業プログラムは、『メコン河流域における乾季の魚類生息地としてのくぼ地(ディープ・プール)』と題した調査報告書を刊行した。この報告書によれば、「メコン大ナマズ(Pangasian-odon gigas)もまた乾季にはくぼ地に生息していると一般的に考えられている。ラオスのサイヤブリ県の漁民によれば、ムアンリアプ村近郊にくぼ地(ディープ・プール)があり、村人たちは、そこがメコン大ナマズの乾季の生息地だと信じている。タイ・ラオス・ビルマ国境に近いボケオ県の漁民もまた、自分たちが彼らの捕獲しているメコン大ナマズは、サイヤブリ県から来ていると信じている。

計画されている商業航行路事業は、メコン河流域の漁業や何千もの人々の食料安全保障を脅かすだけでなく、世界でもっとも巨大でかつ有名な「野生の」魚の一つといえるメコン大ナマズの生存をも脅かしている。今回の環境影響評価報告書は、メコン大ナマズは「大切な魚」と書いているだけだった。

商業航行路事業に伴う潜在的影響について何ら検討を行っていない今回の環境影響評価報告書が、このプロジェクトに関する充分な情報提供を前提にした意思決定に対して何の貢献もしないことは明らかである。それにもかかわらず、新設されたタイ天然資源環境省もラオスの科学技術環境庁も、今回の環境影響評価報告書を受け入れ、メコン河流域の漁村集落に事業の悪影響を及ぼそうとしているのである。

デイブ・ハベル(Dave Hubbel):フリーのアナリスト。主な分析対象は大規模インフラ事業における環境影響評価

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