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ビルマ・ティラワ経済特区>適切な移転・補償措置を求めた住民が「不法侵入罪」容疑? 深刻化する人権侵害に対し、緊急要請書をJICAに提出

2014年9月29日

国際協力機構(JICA)が政府開発援助(ODA)の下、海外投融資(出資)を行なっているミャンマー・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業の移転問題をめぐり、今年6月にJICAへ異議申立てを行なった申立人3名のうち、1名への人権侵害が深刻化しています。

申立人の一人であり、同事業の早期開発区域400ヘクタールからの移転を迫られているチャウウィン氏は、補償金の一部を受け取ったものの、移転地での生活維持が困難であることから、より適切な補償措置を求め、400ヘクタール内での生活を続けてきました。

しかし、9月26日、地元タンリン郡警察署に出頭を命ぜられ、彼の家族3名(本人、妻、息子。未成年である娘3名は含まれず)に対する「ミャンマー刑法第447条不法侵入罪」の容疑がかけられました。幸い、同日夜に2名の保証人の下、保釈されましたが、今後、公判が開かれ、最悪3ヶ月間の禁固刑に処される可能性があります。(初公判の日取りは未定。)

これまでにも、チャウウィン氏に対しては、「補償を全額受領し移転しなければ、訴訟を起こす」など、ビルマ政府当局からの脅迫ともとれる言動が続いていたため、先日9月18日には、メコン・ウォッチからJICAに対し、事実確認を行なうこと、また、強制措置に至ることのないようビルマ政府当局に申し入れるよう、要請書を提出したばかりでした。

http://www.mekongwatch.org/resource/documents/rq_20140918.html

 

JICAは現在、同事業による「生活悪化」について、異議申立手続に基づく調査を継続中で(最長で11月4日まで) http://www.jica.go.jp/environment/objection.html   住民グループ、ビルマ政府当局、JICA間での対話も始まったばかりでしたが、今回のようなビルマ政府当局の強行措置は、そうした問題解決に向けた動きに水を差すばかりでなく、「移転住民の適切な参加」を規定したJICA環境社会配慮ガイドラインにも違反しています。 日本政府、JICAは、今後、同事業の残りの2,000ヘクタール区域で、さらに多くの世帯の移転が発生することも鑑み、早急な事実確認を行なうとともに、ビルマ政府に対し、JICAガイドラインの遵守を早急に申し入れるべきです。 メコン・ウォッチは、9月29日、こうした甚だしい人権侵害への早急な対処を求め、外務省・JICAに緊急要請書を提出しました。

メコン・ウォッチから国際協力機構(JICA)への要請書

緊急要請書(2014年9月29日)

>PDFはこちら http://www.mekongwatch.org/PDF/rq_20140929.pdf

 

2014 年 9 月 29 日

外務大臣 岸田 文雄 様
国際協力機構 理事長 田中 明彦 様

ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業
異議申立人への人権侵害に関する緊急要請書

特定非営利活動法人メコン・ウォッチ
代表理事 福田健治

先日、弊団体から 2014 年 9 月 18 日付で国際協力機構(JICA)に提出した要請書(添付文書「ビ ルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業 異議申立人に対する人権侵害の疑いに ついて」)の件につきまして、現地で大変憂慮すべき事態となっていることから、再度、本緊急要 請書を提出致します。

本事業に関し、今年 6 月 2 日に JICA への異議申立てを行なった住民 3 名のうち 1 名は、これま で、補償金を一部受け取ったものの、現在と同様の生活水準を移転先で維持できないことから、当 局に提示された補償金の全額受け取りを拒み、同 SEZ 早期開発区域(400 ヘクタール)内での生活 を続けてきました。また同時に、移転先でも同様の生活水準を維持できるよう、適切な補償・生計 回復措置を求めてきました。

しかしながら、先週 9 月 26 日、上記申立人がタンリン郡警察署に出頭を命ぜられ、本人と彼の 家族 2 名(妻、および、息子 1 名。未成年である娘 3 名は含まれず。)がミャンマー刑法第 447 条 による不法侵入罪の容疑をかけられる事態となっています。幸い、同日夜に本人は保釈されていま すが、現在、初公判の日程に関する連絡待ちで、最悪、3 ヶ月間の禁固刑に処せられる可能性があ るとのことです。

本件については、これまでにも、「補償金を全額受領して移転しなければ、訴訟を起こす」など、 ビルマ政府当局による住民への脅迫に等しい言動が報告されていたため、弊団体から JICA に対し、 ビルマ政府当局への事実確認を行なうよう、要請してきました。また、訴訟を含む強制的な措置が とられることのないよう、JICA がビルマ政府当局に申し入れることも要請してきましたが、今回 のような事態が起きていることは大変遺憾です。

住民 3 名による「生活悪化」に係る異議申立後も、依然として、移転先での具体的な生計回復措 置の実施にはつながっておらず、「生活水準の改善、少なくとも回復」という JICA「環境社会配慮 ガイドライン」(以下、ガイドライン)の規定が守られているとは言い難い状況が続いていますが、 今回のように、移転住民が逮捕、あるいは、刑事罰の制裁の下に移転交渉を強いられることは、移 転住民の「適切な参加」というガイドライン規定にも違反する可能性があります。

また、JICA 異議申立審査役が異議申立手続に基づき調査中であり、問題解決に向けた対話の促 進を図ろうとしている最中に、現地当局が申立人に対する訴訟という強制的な措置をとろうとして いる事実は、申立人が JICA への異議申立てをしたことにより受けた不利益であるかは定かでない にせよ、そのように見做される可能性も高いことから、今後、影響住民が異議申立制度を利用する ことを躊躇するなど、制度の有効性や信頼性を損なう可能性があります。

従って、私たちは、貴省、および、貴機構に以下の点を強く要請します。

i. 依然として、問題解決に向けた対話が行なわれる可能性があるなか、あるいは、対 話が継続されているなかでの、今回の移転住民に対する強制的な措置に関し、ビル マ政府当局に対する抗議の意を早急に申し入れること。

ii. 本件の詳細に関し、ビルマ政府当局に対する事実確認を早急に行なうこと。

iii. ガイドラインの規定に則った移転・補償措置(「移転住民の適切な参加」、「生活水準 の改善、少なくとも回復」等を含む)、また、人権配慮(「社会的弱者への適切な配 慮」等を含む)を確保するよう、ビルマ政府当局に対し、早急に申し入れること。

本事業の残り 2,000 ヘクタール区域では、さらに多くの世帯の立ち退きが起こることも鑑み、本 件のような移転住民に対する甚だしい人権侵害に対し、毅然とした態度で臨んでいただけるよう、 よろしくお願い致します。

以上

添付文書:「ビルマ(ミャンマー)・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業 異議申立人に対する人 権侵害の疑いについて」(特定非営利活動法人メコン・ウォッチ、2014 年 9 月 18 日)

連絡先:
特定非営利活動法人メコン・ウォッチ

Cc: JICA 異議申立審査役
JICA 環境社会配慮助言委員会 各委員

ティラワ現地住民グループのプレスリリース

 また、以下、本件に関するティラワ現地住民グループ(TSDG:ティラワ社会開発グループ)のプレスリリース(和訳)をご紹介します。

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(原文はミャンマー語。同英訳を和訳)

ティラワ社会開発グループ

プレス・リリース
2014年9月29日

ティラワ住民、自らの土地にとどまったことで不法侵入の容疑に

ミャンマー・ヤンゴン発−ティラワ地区の住民チャウウィン、および、彼の妻と息子は、9月26日(金)、タンリン郡警察署に出頭を命ぜられ、ミャンマー刑法第447条の下、不法侵入罪の容疑をかけられました。チャウウィンと彼の家族は、ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業フェーズ1のために収用された彼の家と土地から移転することを拒否してきました。

「政府は、住民の土地からこのように無理に住民を追い出すべきではない。まず、私たちはSEZ事業計画を知らないのに、適切な補償や新しい生計手段を提供することもなく、私たちの土地をとり、劣悪な生活条件の新しい村へ住民を移転させようとしている。もし、私たちが合意しなければ、私たちは刑務所行きだ。私たちは、どうやって生活をし、家族を養っていけるんだ?」と、チャウウィンは述べました。

ミャンマーの上席弁護士であるミントゥウィン氏は、次のように述べています。
「(刑法)第447条の下で多くの農民が逮捕されているが、今回はその中の最新のケースとなる。チャウウィンは依然として同地に居住していることから、同条項による容疑をかけられるべきではない。政府は、土地収用法(1894年)に則った法的な土地収用を行なっておらず、また、ティラワSEZに伴う土地収用にあたって、住民への補償を規定している農地法(2012年)や細則を適切に遵守しなかった。そして今度は、刑法を使い、住民を彼らの土地から追い出そうとしている。」

チャウウィンは以前、彼の土地で季節作物を育ててきました。現在は、同地で牛と鶏の飼育を続け、また、同事業フェーズ2地域にある自分の水田で稲作を行なっています。チャウウィンは、彼の土地と収入源の喪失に対する補償受領に関し、(ミャンマー語のため)読むことのできない合意書に署名させられました。チャウウィンは、1回目の補償分割支払い分を受け、移転地に新しい家屋を建て始めた後、補償金が家を完成させたり、作物や家畜を育てる代替地を購入するのに十分でないと気づきました。したがって、彼は、2回目、および、3回目の補償分割支払いを受けることを拒み、彼の家にとどまってきたのです。

チャウウィンは、国際協力機構(JICA)の異議申立手続の下、今年6月に異議申立てを提出した3名の申立人のうちの1人でした。同申立てでは、農地や農地アクセスの喪失を含む、ティラワSEZ事業フェーズ1により住民が被った損害、および、同事業の今後のフェーズで住民が被るであろう損害がまとめられていました。日本政府の援助実施機関であるJICAは、ティラワSEZ事業フェーズ1に出資していますが、現在、同申立ての調査中で、同調査を11月初めまでに終えることになっています。

「JICAは、ティラワSEZ開発事業において、ミャンマー政府にJICAガイドラインを遵守させる責任があるが、それができずにきた。JICAはミャンマー政府に対し、ガイドラインの規定に則り、ティラワ住民が移転計画の立案・実施・モニタリングにおいて(適切に)参加できるよう、また、生活水準の改善、少なくとも回復ができるよう、そして、(ミャンマー政府が)社会的に脆弱なグループの人権を保護するよう、申し入れるべきだ。」と、メコン・ウォッチの土川実鳴は述べました。

「チャウウィンと彼の家族に対する容疑は、同事業フェーズ2に暮らす私たちへの警告だ。もし、私たちが移転に合意しなければ、同じように私たちも逮捕されうるということだ。」同事業フェーズ2区域である2,000ヘクタールの住民であるミャーラインは述べました。「私たちは問題を起こしたいわけではない。私たちはただ、今と同様の生活を続け、家族を養い続けるために、十分な補償措置を受けたいだけだ。」

チャウウィン、および、彼の妻と息子は、金曜(注:9月26日)夜、保釈されていますが、公判の日取りは未定のままです。

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※ミャンマー・ティラワ経済特別区(SEZ)開発事業

パッケージ型インフラ事業として、日本の官民を挙げて進められている。ヤンゴン中心市街地から南東約23kmに位置するティラワ地区2,400ヘクタールに、製造業用地域、商業用地域等を総合的に開発する事業。フェーズ1(400ヘクタール)にODA海外投融資による出資をJICAが決定。三菱商事、住友商事、丸紅が参画。JICAは残り2,000ヘクタールにおいても協力準備調査を実施中で、環境アセスメントや住民移転計画の策定を支援している。フェーズ1は2013年11月に着工し、68家族(約300人)がすでに移転。残り2,000ヘクタールの開発では、さらに1,000家族以上(約4,000人)が移転を迫られることになる。

 

→ティラワ経済特別区(SEA)開発事業についての詳細はこちら
http://www.mekongwatch.org/report/burma/thilawa.html

 

(文責 メコン・ウォッチ)

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