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サルウィン川ダム開発

東南アジアでダムのない川としては最長のサルウィン川(タンルウィン川)で、ビルマ(ミャンマー)軍政とタイのタイ発電公社(EGAT)とが共同して複数の地点で大型水力発電を行う合意を結び、地点によっては2007年にも建設が始まろうとしています。

プロジェクト名
サルウィン川ダム
所在地
サルウィン川のビルマ国内およびビルマ・タイ国境4ヶ所と、ビルマ南部テナセリム川1ヶ所。
実施機関
ミャンマー電力省およびタイのEGATが開発に合意。実施機関や出資者は地点ごとに決定される模様。
資金供与
開発資金はタイ側が調達するとされているが、詳細は不明。
状況
2005年5月にビルマ電力省とタイのEGATとが覚書を交換、サルウィン川およびテナセリム川で共同水力開発を行うと合意。同年12月に、5地点のうちビルマ・カレン州のハッジー地点の開発を最初に行うことで合意。2007年11月の建設開始を目指している。

サルウィン川ダム開発とは?

5地点で共同開発

2005年5月にビルマの電力省とタイのEGATとが覚書(MOU)を交わし、共同してサルウィン川およびテナセリム(タニンタリ)川で大型ダム建設を伴う水力発電開発をすることに合意しました。両国はこの合意の下でサルウィン川およびテナセリム川流域での水力開発、発電、送電、配電について共同調査を行い、相互投資の可能性を評価することになりました。具体的には次の5地点に大型ダムおよび発電所を建設することになっています。

  1. ビルマ・シャン州内サルウィン川のタサン
  2. ビルマ・タイ国境上サルウィン川のウェイジー
  3. ビルマ・タイ国境上サルウィン川のダグウィン
  4. ビルマ・カレン州内サルウィン川のハッジー
  5. ビルマ南部、テナセリム川・地点不明


ダム建設が予定されているウェイジー地点の近く。
(撮影:東南アジア河川ネットワーク)


サルウィーン川に計画されているダム

ハッジー地点を最優先で開発

2005年12月にビルマの電力省とタイのEGATとは再び合意を交わし、上記5地点のうちビルマカレン州に位置するハッジー地点を最初に開発することにしました。この合意では建設開始が2007年11月、商用操業開始が2013〜2014年に予定されています。

生産電力の使い道

生産される電力の大部分はタイに輸出される予定です。ただし上記2005年12月の合意によれば、タイはハッジー地点で生産される電力のうち一定割合を無料でビルマに提供することになっています(割合は不明)。ほかの地点でも同様の取り決めがされることが予想されます。

なぜ問題なのか


川岸の野菜畑で作業をするカレン人男性。
川岸の砂浜の多くにこのような畑が見られる。
(撮影:東南アジア河川ネットワーク)

ビルマ・タイを流れるサルウィン川は、川で漁をし岸で小規模な農業を営む周辺住民の生命線となっています。両岸の村々には内陸部と道路で結ばれていない所も多く、住民はサルウィン川を主な通信・輸送手段として使っています。ダムが建設されれば地域社会のネットワークがずたずたにされるだけでなく、ダムの上流は水没し、下流では水質の悪化や魚が獲れなくなるなどの深刻な影響が出るでしょう。

本当に「安い電力」か

タイはビルマとの共同水力開発によってタイ国民に安価な電力を供給することができると主張しています。本当に安いのでしょうか。今のまま開発が進めば、両国による水力開発は強制移住、強制労働、土地の無償接収など、建設地周辺住民の大きな犠牲の上に成り立つことになります。住民の払うであろう犠牲を計算に入れると、生産される電力は決して安いとは言えません。

民族に対する迫害行為の悪化の恐れ

ビルマは多民族国家で、人口の約6割が多数派のビルマ民族、約4割が非ビルマ民族です。非ビルマ民族の一部は民族の自治を求めて武装しビルマ軍政に抵抗しています。

これまでの事例を見ると、ビルマで大型開発事業が非ビルマ民族の住む地域で行われる場合には、まず建設地域に「警備」を名目に大量の国軍部隊が投入されます。そしてこれらの部隊が必要とする労働力や物資などの多くを地域住民が負担させられます。例えばビルマ南部を横切るヤダナ天然ガスパイプラインが建設された際には、展開していた部隊は深刻な人権侵害を引き起こしてきました。カレン人住民を強制的に移住させたり、駐屯地の整備や物資運搬などの強制労働をさせたりしたほか、強かん、拷問、殺人すら起きているのです。また、日本の政府開発援助(ODA)を使ってカレンニー州に建設されたバルーチャウン第二発電所周辺では、建設後35年以上たった今日でも、カレンニー人住民が発電所を警備する部隊のために日常的に強制労働をさせられたり、発電所周辺に埋められた地雷を踏んで死傷したりしています。

今回水力開発が計画されているサルウィン川上の4地点(上流からタサン・ウェイジー・ダグウィン・ハッジー)はカレン・カレンニー・シャンなどの民族が多く住み、ビルマ軍政の支配地域と武装民族勢力の支配地域とが入り組んでいるところにあります。ビルマ軍事政権はここで暮らす住民に対して村の焼き討ち、略奪、強かん、殺人、強制移住などの人権侵害を行っているため、この地域からは多数の難民や国内避難民が出ています(現在、タイ国境の難民キャンプにいるカレン人・カレンニー人は約14万人で、このほかに数十万人の国内避難民がビルマ側のジャングルに暮らしているとされています)。住民によるビルマ軍のための強制労働も頻繁に行われています。

サルウィン川の開発がこのまま進めば、建設現場の警備のために駐屯するビルマ軍部隊が増強されることはほぼ確実です。住民はダム建設によって家や農地などの生活基盤を失うだけでなく、ビルマ軍によって強制労働をさせられ、略奪、強かんなどの侵害行為を受け、一帯からさらに多くの難民や国内避難民が出ることが強く懸念されます。ビルマ軍による侵害行為は建設中だけでなく、完成後もダム・発電所を警備する部隊がいる限り続くことになります。

不透明な意思決定過程

2007年11月の建設開始をめざすなど、ハッジー地点の開発はきわめて急ピッチで進められています。しかしこれまでにビルマ・タイが行った調査の結果や、環境影響評価、どのようなダム・発電所を建設するのか、建設によって影響を受ける住民にどう対応するのかといった基本的な資料はこれまでのところ一切公開されていません。また、ビルマはおろかタイ国内でも、ダム建設によって影響を受ける住民に対する事業の説明などは行われていません。

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