メコン・ウォッチの松本です。
7月13日のメコン河開発メールニュースでお伝えしました外国資本によるカンボ
ジアのトンレサップ開発に関わるニュースの第2弾です。
以下、メコン・ウォッチの土井利幸(バンコク)による解説と翻訳記事です。
ーーーーーーーーーーーー
トンレサップ湖開発の背景:迫る産業化と外国資本(2)タイ
先に紹介した「迫る産業化と外国資本(1)中国」の続編です。今回は、タイの
国家投資委員会(BOI)がカンボジアでの投資環境を調査するために視察団を派
遣した際の報告記事です。
視察団が訪問した州はトンレサップ湖周辺の西部から南部に位置し、トンレサッ
プ湖からタイに輸出される魚の中継基地ポイペの工業団地建設には投資委員会も
注目しているようです。また報告は、「(カンボジアの)淡水魚は需要を上回っ
ている」と断言し、特にコンポンチュナン州における魚類加工(缶詰)産業への
投資に対する期待が見てとれます。
視察団が訪問した州のうち、バッタンバン州・ポーサット州・コンポンチュナン
州については、メコン・ウォッチの新刊『水の声〜カンボジア・トンレサップ湖
の変容と脅かされるひとびとの暮らし〜』でも、地元の零細漁民が直面する問題
について紹介しています。あわせてご覧になって下さい(下記のURLからPDFファ
イルで閲覧・ダウンロードが可能です)。
http://www.mekongwatch.org/resource/publication/index.html#SEC9
また、前回の記事での中国がそうであったように、今回の記事でもメコン圏にお
いてタイがカンボジアなどの国々に開発資金を提供する国に成長していることが
よく分かります(訳注2も参照のこと)。
**********
教科書に載らない経済学‐治安の回復するカンボジアに投資をする秘訣
ピチット・デートニラナート
プージャッカーン
2005年1月31日(抄訳=原文タイ語)
プノンペン市民が在外国人の建物を破壊してカンボジアの貿易投資環境に大きな
悪影響を及ぼした事件以降【訳注1】、カンボジア政府は外国人に対して投資や
企業活動を再開するだけの信頼を回復するために、経済・社会・政治の改善と安
定を印象付ける必要に迫られてきた。カンボジアと国境を接するタイでは投資促
進委員会(BOI)がカンボジアの潜在能力に着目し、タイ財界関係者約20名から
なる視察団を編成し、2004年末にバンティアイ・ミィアンチェイ州・バッタンバ
ン州・ポーサット州・コンポンチュナン州・プノンペン特別市など重要な場所に
派遣した。目的は貿易投資機会の調査とともに昨今のカンボジアの情勢を実見す
ることであったが、その結果、国内に平穏が戻り貿易投資の継続的な拡大が可能
になったと考える。そこで以下では、カンボジアへの投資機会を探っている企業
関係者に情報を提供する意味で視察団が訪問した各州が秘めている可能性につい
て述べたい。
バンティアイ・ミアンチェイ州−アランヤプラテートの姉妹都市
バンティアイ・ミアンチェイ州は、国境でタイ側のスラケオ州アランヤプラテー
ト郡と接するポイペ郡を擁する州で、面積は約1万1551平方キロ、8郡64地区から
なる。人口は66万9961人で、住民の大多数は米・とうもろこし・大豆・緑豆を栽
培し家畜を飼育する農家である。4本の道路を整備するなど産業化の準備を進め
ている。農産加工品産業やタイ国境での工業団地の建設に可能性が秘められてい
る。地元では乾物の農産品やとうもろこしを原料とした飼料の生産に期待をよせ
ている。
バッタンバン州−米と水の都
バッタンバン州は、タイ国境から約120キロのところに位置し、住民の大半は米
作農家で作付け量はカンボジア国内最大を誇る。他にとうもろこし・大豆・緑豆
も生産するが、収穫・加工技術が低く雨季にはとうもろこしの収穫に大きな損害
が出る。精米加工の効率も低い。これらの方面にタイからの投資が活かせるだろ
う。またジュートの作付面積が16ヘクタール(16万平方メートル)あり、これを
原材料に年間500万枚のジュート袋を生産している。最近では原材料の一部が地
元で商品化される機会が増えている。投資対象産業としては農業と農産品加工業
があり、とりわけ効率のよい精米加工施設や発電設備の建設が求められている。
ポーサット州−オレンジ・カウンティー
ポーサット州は、タイ側でタラート州と国境を接するが、両国の検問所がある地
点からは約175キロ離れている。過去6年間農業用水の不足に見舞われたためタイ
の支援による灌漑設備の充実に加えて発電事業に対する期待もある。魚の干物の
生産はことに有名で、かつてはポーサット・オレンジの作付けでもよく知られて
いたが、昨今は市場での需要や仲買人の数が減少し生産が少なくなっている。農
産物には他に、ごま・とうもろこし・豆類・米がある。滝が多いのでリゾート建
設による観光地開発も可能である。タラート州を経由して農産物と観光客を輸送
する車両に簡単に通行許可が下りるようになれば利便性が増す。
コンポンチュナン州−名物魚の干物
コンポンチュナン州は、面積約552平方キロでその3分の2は丘陵地帯である。人
口は約50万人で住民の大部分は農業か漁業を営む。漁獲高が国内最大で年間2000
トンから5000トンにも及び、魚の干物を生産する。ワニの養殖に加えて飼料の生
産が有望である。今回視察団の関心を引いたのが豊富な原材料をもとにした魚の
缶詰で、まず小規模にはじめて道が開けば大規模な工場に発展させることもでき
る。コンポンチュナン州では電力が不足しベトナムから1キロワット当たり12バー
ツ(約36円)で電力を購入している。そこで電力開発に協力する可能性もある。
カンボジアの投資の現状
カンボジア投資促進委員会事務局長のスオン・シティ氏は現状をまとめて、カン
ボジア政府が投資への信頼を得るべく保障と透明性を増す法整備を進めていると
した。門戸は開かれ外国人も差別されることはなく、国家や社会を脅かすものを
除いてほとんどの領域で100%に近い投資が可能である。土地所有はカンボジア
国民に限られているが、外国人でも長期の借用はできる。電力ではカンボジアの
民間企業との協調融資が考えられる。一般に投資案件を申請して28日、複雑な案
件でなければ7日で認可が下りる。所得税・法人税は最短6年最長9年まで免除さ
れ、設備や原材料への課税もない。
タイの対カンボジア投資がはじまったのは1991年で、銀行・電話通信・航空・ホ
テルなどの分野に及んでいる。その後マレーシアも関心を寄せ投資を開始した。
記録の残っている1994年8月1日から同年9月30日までの間にカンボジア投資促進
委員会は1001の案件(総額39億8900万米ドル=約4270億円)に対して認可を下し
た。タイは海外からの投資元で第5位の位置にあり、57件の案件に対して登記し
た投資額は1億3500万米ドル(約144億円)にのぼる。最も多いのが食品加工産業
で、次いでホテル観光業・既製洋服・木材加工品・農産加工品・電話通信の順で
ある。
2003年にタイのタクシン首相が周辺国への開発支援の意欲を示したパガン宣言を
発表したことでタイ−カンボジア間の協力の機運が高まり【訳注2】、両国の関
係ばかりかカンボジアに対する理解や双方の相手に対する姿勢にも改善が見られ
た。今後タイからの投資はカンボジア側の需要と調和すべく吟味することが重要
で、そのことで投資が真の意味での継続性を保つ。
プノンペン商工会議所−民間が果たす役割
視察団のプノンペン訪問中に商工会議所に属する大企業の関係者や建築・運輸・
工業団地・土地開発・貿易・飲料水・農産加工品・水産品など異業種の企業幹部
など51名との意見交換が実現し、この席で着実に進歩を遂げるカンボジア民間企
業の役割と可能性が明らかになった。タイの財界人がプノンペン商工会議所を訪
れることで両国の民間の関係が緊密化する良いきっかけとなった。また、国境を
接し長年にわたって交易を育んできた事実が今後の貿易投資を拡大する信頼基盤
となっている。
需要の高まる電力セクター
昨今タイは国境沿いでカンボジア諸州の多くの場所に政府の支援策に基づいた特
別価格で電力を供給しているが、電力需要はさらに増しており、バンティアイ・
ミィアンチェイ州で5メガワット、バッタンバン州では12メガワットの需要があ
る。また二ヶ所に水力発電所を建設する計画もあり、これは24メガワットのバッ
タンバン第1ダムと36メガワットのバッタンバン第2ダムである。コンポンチュナ
ン州とプノンペン特別市でも電力需要の伸びは大きい。カンボジア電力公社
(EDC)は民間から電力を購入し民間に供給しているが、発電はディーゼル油で
タービンを運転してまかなっており、市街地を結ぶ送電線はまだ敷設されていな
い。115キロボルトの送電線を敷設し各地に変電所を建設する選択肢もあるが、
海外からの輸入石炭を燃料とする火力発電所の建設への投資も考えられる。電気
はプノンペン特別市と近隣の諸州に供給し、十分な量が確保できるのであればタ
イの国境地帯に逆輸入することもできる。
大きな可能性を秘めた農産品と農産加工品
カンボジアはタイと似た経済基盤を持つ国だが、タイには少ない農業資源もいろ
いろとある。生産は盛んだが、野菜類・米・とうもろこし・大豆などの市場や保
存手段が限られている。淡水魚は需要を上回っている。カンボジア側との共同投
資はタイで不足する原材料を調達するための良いきっかけとなる。今回の視察団
が実見したところでは、カンボジアには今後の貿易投資拡大の可能性が潜在して
いる。しかし各方面で具体的な成果があがるか否かは政府・民間機関の協力にか
かっており、両国の財界間の定期的な交流と長期的で絶対的な信頼関係の構築が
重要である。
資料請求・ご批判・ご意見などは投資促進委員会(BOI)投資マーケティング部
(電話:02-537-8163、電子メール:marketing@boi.go.th)まで。
【訳注1】03年1月29日夕刻、タイの人気女優が「アンコール・ワットはタイ人の
もので返してくれなければカンボジア公演に行けない」と発言したとされること
(真偽は不明)をきっかけに、約1000名のカンボジア人がプノンペンにあるタイ
大使館やタイ人経営のホテル・企業を焼討ちした事件。
【訳注2】「パガン宣言」は、03年11月12日、ビルマ中西部の遺跡都市パガンで
開催されたタイ・ビルマ・カンボジア・ラオス四カ国首脳会議で採択された。国
境地域で貿易投資・農工業・輸送網整備・観光業などの分野での国家間協力を目
指す。相互協力をうたっているものの、実際はタイによる他の三カ国への開発支
援(バーツ借款)提供の表明と受取られている。後にベトナムも加わり、域内で
の観光ビザ発給の簡素化なども検討された。
--
メコン河開発メールサービス
登録解除・バックナンバー---->http://www.mekongwatch.org/news/
管理担当者に連絡------------>mailto:news-admin@mekongwatch.org