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Date:  Sun, 30 May 2004 20:35:23 +0900
From:  Satoru Matsumoto <satoru-m@msi.biglobe.ne.jp>
Subject:  [MekongWatch]対ビルマODA>5月30日事件から1年
To:  news@mekongwatch.org
Message-Id:  <20040530201528.5E3A.SATORU-M@msi.biglobe.ne.jp>
X-Mail-Count: 00251

メコン・ウォッチの松本です。

北ビルマでアウンサンスーチー氏が拘束され、多くの支持者が殺害された2003年
5月30日の事件から1年が経過しました。先日再開された国民会議には民主化グルー
プや民族グループが参加せず、民主化はほとんど進展がない状態です。

その一方で、日本の対ビルマODAは何の説明もなく正常化へと道を進めています。
この1年間の対ビルマODAの動きを追いました。

***************

日本は5月30日事件で対ビルマODAを止めたのか?
ーますます不透明になる日本の援助ー
by メコン・ウォッチ

5月30日、北ビルマでアウンサンスーチー氏が拘束され、大勢の支持者が殺害さ
れた事件から1年を迎えた。日本政府は、事件後、「経済協力案件を何事もなかっ
たかのごとく進めることはできない」としていた。しかし、ビルマの政治情勢が
改善されない中、昨年末以来、外務省は何の説明もなく対ビルマODAを『普通の
状態』に戻してしているのだ。


5月30日事件とODA
   日本政府は、昨年5月30日の事件直後は問題を過小評価していたが、その後欧
米の政府高官の発言やメディアの報道を見て、厳しい姿勢に転換した。事件発生
から3週間後、外務省の矢野副大臣がビルマを訪問し、『スーチー女史の即時解
放』『NLDの自由な政治活動の速やかな回復』『5月30日の事件に対して国際社会
に対する説得ある説明をすること』を、軍事政権に強く申し入れた。また、昨年
7月7日の記者会見で、外務省の竹内事務次官は、こうした問題が解決する方向に
動いていない中では、新規の経済協力案件を何事もなかったかのごとく進めるこ
とはできないと発言している。それまで日本政府は、基礎的生活分野における人
道支援のためのODAは例外的に認めていたことを考えると、外務省首脳の発言は
人道援助すら今まで通りには供与できないと解釈できる。


人道援助の再開
   確かに5月30日事件以降、日本政府のビルマ軍事政権へのODAは止まっていた、
ようである。関係者の話を総合しても、NGOによる小規模プロジェクトを含めて、
全て止まっていた。ところが、昨年10月から事態は少しずつ変化した。外務省の
ホームページの情報をもとに、昨年5月30日以降に決定された援助を一覧にして
みた。

2003年10月16日 571万1308円(草の根無償)
  カチン州村落給水施設整備計画(国際NGO)
2003年10月30日 487万4266円(草の根無償)
  カレー市ウェスレークリニック医療機材供与計画(ローカルNGO)
2003年11月4日 166万420円(草の根無償)
  コーカン特別区(シャン州)緊急食糧支援計画(国際NGO)
2003年11月12日 927万2000円(草の根保障無償)
  ヤンゴン子供病院エレベーター整備計画(医療機関)
2003年11月26日 648万6374円(草の根無償)
  ドゥイン・セイッ小学校(モン州)建設計画(ローカルNGO)
2003年12月1日 145万152.45ドル(人間の安全保障基金)
  ラカイン州における農民参加型種子増産(FAO)
2003年12月12日 978万104円(日本NGO支援無償)
  チャウパンドゥ村の小規模橋梁建設による村落のアクセス改善事業
2004年1月7日 260万9702円(草の根無償)
  パウンドーウー僧院学校(マンダレー管区)施設整備計画(ローカルNGO)
2004年1月7日 802万9552円(草の根無償)
  デーバレイン第ニ小学校(モン州)校舎及び衛生関連設備整備計画
  (ローカルNGO)
2004年1月7日 433万7222円(草の根無償)
  スィンバウンウェ地区(マグエ管区)給水計画(ローカルNGO)
2004年1月13日 1452万7488円(日本NGO支援無償)
  ラカイン州アングモ村落の桟橋建設によるアクセス改善事業
2004年1月16日 1億5900万円(一般無償)
  人材育成奨学計画
2004年2月2日 931万4334円(草の根無償)
  クウェカボー移動診療チーム医療機材供与計画(ローカルNGO)
2004年2月6日 416万8130円(草の根無償)
  タウンロンニョ村(バゴー管区)小学校建設計画(ローカルNGO)
2004年2月6日 513万466円(草の根無償)
  タワッティー村中学校(サガイン管区)建設計画(ローカルNGO)
2004年2月10日 252万4790円(草の根無償)
  ナウンタロン第67小学校(カレン州)建設計画(ローカルNGO)
2004年2月18日 424万2428円(草の根無償)
  ニャウンウー地区小学校群(マンダレー管区)給水計画(ローカルNGO)
2004年3月1日 6億6200万円(一般無償)
  第五次母子保健サービス改善計画
2004年3月1日 993万3330円(日本NGO支援無償)
  ミンルート村における小規模橋梁建設による村落生活改善事業 
2004年3月15日 771万7110円(草の根無償)
  インポウコン中学校(バゴー管区)建設計画(ローカルNGO)
2004年3月15日 851万9016円(草の根無償)
  チャウンネッ小学校(バゴー管区)建設計画(ローカルNGO)
2004年3月15日 908万2752円(日本NGO支援無償)
  中央乾燥地における既存井戸修繕による生活用水供給
2004年3月16日 717万2624円(草の根無償)
  タイェッドウ中学校(エヤーワディー管区)建設計画(ローカルNGO)
2004年3月16日 999万9852円(草の根無償)
  ボーンピャン僧院学校(ヤンゴン管区)建設計画(ローカルNGO)
2004年3月16日 999万6314円(草の根無償)
  トングワ地区(ヤンゴン管区)プライマリーヘルスケア施設改善計画
  (国際NGO)
2004年3月22日 1541万6408円(日本NGO支援無償)
  タイ国境沿岸地域におけるHIV/AIDS対策事業
2004年4月28日 30万ドル
  シャン州北部における元ケシ栽培農民に対する緊急食糧支援活動(WFP)


なぜ援助が再開されたのか?
   昨年6月の矢野副大臣のビルマ訪問で強く求めた3つの問題解決は、全く達成
されていない。にもかかわらず、人道援助が何の説明もなく再開されているので
ある。なぜか・・・。
   今年3月30日、メコン・ウォッチの質問に対して、外務省南東アジア第一課の
山野内課長は、次のように答えている。「5月30日の事件は、国内外に衝撃を与
え、そのまま援助を続けるわけにはいかなかった。新規案件は見合わせようと判
断した。ただし、緊急性、人道的側面、民主化や経済構造改革に資する案件は粛
々と実施することにした。また、ASEAN全体やCLMV(カンボジア、ラオス、ミャ
ンマー、ベトナム)全体でやっているものも例外とした」。
   ここで挙げられた「例外」は、5月30日以前に実施していた援助と全く同じで
ある。もし山野内課長の発言通りだとすると、日本政府は5月30日事件以降も対
ビルマODAの方針を変更していなかったことになる。「新規の経済協力案件を何
事もなかったかのごとく進めることはできない」という竹内次官の説明はうそだっ
たのか?
   実は、外務省幹部によれば、日本政府は、何の説明もなく、段階的に対ビル
マODAの『事実上の制裁』を緩めてきたのである。9月に人道援助を、12月に民主
化に資する案件とASEAN全体やCLMV全体でやっている案件を『解禁』した。先ほ
どの表を見て欲しい。確かに昨年10月に草の根無償が再開され、12月には人間の
安全保障基金や日本NGO支援無償といったスキームにも拡大している。それぞれ
の時期に、矢野副大臣が掲げた3つの問題に何ら本質的進展がなかったのに、で
ある。軍事政権下のビルマへの人道援助が適切かどうかという議論はここでは置
いておく。ここで問うているのは、説明責任であり、透明性なのである。


ビルマODAの背後に中国脅威論
   日本の対ビルマODAが更に大きく親軍事政権に動くとの噂が流れている。背景
にあるのは中国の存在である。
   中国を源流に持ちビルマを縦断してインド洋に注ぐイワラジ川のインフラ開
発に中国政府が協力する見返りに、中国はこの川を物流ルートとしての利用する
ことを許可されると報道された。つまり、中国は南シナ海を通らずに、イラワジ
川からインド洋に抜けることができるようになる。ある国会議員によると、日本
政府や与党議員はこの動きを相当警戒しており、中国の南下を阻止するためにも、
ビルマの軍事政権を積極的に支援する方向を検討している、という。
   中国のこうした動きを防ぐのであれば、民主化を急ぐ方が効果的だと思うが、
日本政府は逆に軍事政権支援の最大の理由としている。しかし、こうした議論は
公(public)には行われていない。日本政府の対ビルマ援助方針はいつも闇に包
まれている。アウンサンスーチー氏拘束から1年がたったが、すでにそんなこと
がなかったかのように、日本の援助は「普通の状態」に戻っている。いや、むし
ろ「5月30日事件」前より拡大する動きさえ見せているのである。

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