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Date:  Tue, 26 Nov 2002 15:18:39 +0900
From:  Satoru Matsumoto <satoru-m@msi.biglobe.ne.jp>
Subject:  [MekongWatch]中国上流開発>雲南省のNGO代表が問題提起
To:  news@mekongwatch.org
Message-Id:  <20021126151618.1E97.SATORU-M@msi.biglobe.ne.jp>
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メコン・ウォッチの松本です。

中国によるメコン河本流ダム開発や、上流の航路拡張のための岩礁爆破について
は、このメールニュースで様々な批判的な見方を紹介していますが、これまで中
国人による批評はほとんどありませんでした。

そうした中、雲南省のNGOであるGreen WatershedのYu所長が、タイの英字新聞バ
ンコクポストに、自らの考えを投稿しましたので紹介します。

以下、メコン・ウォッチでボランティアをしている山口健介さん(東京大学学生)
の翻訳です。

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FOCUS / 自然の恵みの共有
メコンの流れの変化
2002年11月13日
バンコクポスト紙

メコンの流れに影響するような中国での事業は、より下流域の国々にのしかかっ
てくる。事前の入念な調査なしには何もすべきでないのは当たり前のことだ。

YU XIAOGANG

2週間前、中国の中央政府(以下”中央政府”)は建国以来はじめて、環境影響
評価に関する法律を批准した。この法律では全ての大型インフラ建設事業におい
て、計画・意思決定段階において環境影響評価の実行が事業主に求められる。

今年8月、中央政府は雲南省(中国南西部)地方政府に対し、瀾滄河(メコン河
の中国名。以下”メコン河”)に建設された漫湾水力発電ダムによる立ち退き住
民に及ぼされる社会・生態的影響の軽減を目的とする計画の実行を指示した。

こういった中国の取り組みは、6つのメコン河流域国政府及びそこに暮らす何千
万もの人々にとって大きな意味を持つ。最近になって下流の国々では、中国政府
指導者のなかに大型建設事業の利点ばかりでなく社会的、環境的な面での悪影響
が認識され始めていることも指摘されている。

同時に最近になって中央政府は、自分たちがメコン地域の良き隣人として、また、
人々や経済や社会がメコン河本流やその支流から享受している数多くの便益を管
理・保全するパートナーとして、受けとめてもらう必要を認識している。

だからと言って、中国政府の取り組みが、今のままで十分だと言っているのでは
ない。同様に、ラオス、タイ、カンボジア、ビルマ、そしてベトナムといった他
のメコン河流域国もまた、メコン河から受けている生態面や社会面の便益を維持
できるように一層の努力が必要であることは明らかだ。

メコン河は東南アジア最大の河川であり、その流域80万平方キロに住む6500万人
の人々にとってはまさに生命線といえる。メコン河で採れる魚は流域の人々のタ
ンパク源の実に約80%をも満たしている。農村部に住む何百万もの人々にとって
は、生計や食料の安全保障はメコン河の自然の流れとそこから採れる豊富な魚に
直接的に頼ってきたのである。

なるほどメコン河の恵みは際立ったものだ。しかしここ十年間のメコン河流域開
発事業は、重大な予期せぬ社会・経済そして生態面での犠牲を、流域の河川や人
々に及ぼし続けてきた。そしてこれらの犠牲の原因のなかでも最も目につくのは
メコン河支流及び本流における大型の水力発電ダムである。

タイ、ラオス、およびベトナムは、主要なメコン河支流に大型の水力発電ダムを
建設してきた。タイによるパクムンダムは、今では粗い計画によって社会・環境
的に深刻な影響を与えるダムの代名詞にさえなっている。またパクムンダムほど
はよく知られていないが、ラオスのトゥンヒンブンダムやベトナムのヤリ滝ダム
も、ナムトゥン川、ヒンブン川、セサン川流域の集落に住む何万もの人々の食料
と生計の保障を危ういものにしている。

雲南省では、漫湾と大朝山の2つの巨大な水力発電ダムがメコン河本流に建設さ
れている。さらに昨年290mの高さを誇る雲南省メコン流域第3のダムとなる
小湾水力発電事業の建設が着工された。

水力発電事業は雲南省の開発計画の軸である。漫湾ダムや大朝山ダムで発電され
た電力は、中国国内の配電網に組み入れられ、その大部分は東海岸の広州市など
産業の発達している地域で消費されている。しかし将来的には、そのうちの一部
分とメコン河に現在提案されているその他のダムによる電力とがタイに売られる
ことになるであろう。

これらの事業はすべて電力供給面で貢献している。しかし最近になって政府が気
づき始めたように、こうした事業は同時に深刻な負担も作り出している。すなわ
ち、事業による社会・環境面での影響であり、その中には、肥沃な土地、森林、
そして漁業の永久的な喪失、および立ち退きに供なう集落や文化の崩壊などが含
まれる。これらが全て、直接事業に関わる経済的負担になることは避けられない。

大型の事業においては、これらの負担は十分把握され、意思決定過程に組み入れ
られる必要がある。しかし、これらの事業による損失はそれだけではない。

雲南省における大型ダム建設の影響については未だ調査されていない。しかし、
その負担がラオスやタイのメコン河沿いに暮らす漁民集落にもたらされる
ものであるとしても、それは中国での事業における負担としてみなされなければ
ならない。

メコン河流域において大型ダムの計画・資金捻出・建設を行なう政府および国際
金融機関は、建設開始前に事業の潜在的影響及び負担についてより詳細に調査す
べきである。

開発事業の潜在的なコストを評価するという意味で、地方政府や地元の集落は重
要な役割を果たす。提案された事業の建設理由や方法、また運営方法が知らされ
ることによって、集落自身が、事業によって生計・自然環境・経済および文化面
での影響を予測することができる。

したがって、最終的には地元集落が、事業の潜在的損失及び便益を受け入れるか
どうかの決定権を持つべきである。

この点について教訓となるのは、メコン河上流ラオスービルマおよびラオスータ
イ間の国境に沿った航行路建設に伴う費用便益をめぐる様々な申立である。この
事業では、大規模貨物船が通過できるよう航行路を拡張するために、21の早瀬と
浅瀬の爆破と浚渫が必要とされる。その環境影響評価はかなりしっかりと批判さ
れている。批判のポイントは、メコン河における漁業やメコン流域に暮らす何百
もの漁民集落への食料供給、それに経済面での事業の潜在的な影響を評価してい
ない点である。地元の集落、なかんずくタイにおいて、特に危惧されているのは
もっともなことである。

それと同時に、航行路開設事業に批判的な人たちの中には、事業による利益はタ
イにはもたらされず、雲南省をベースに活動する中国企業にすべての利益が行く
だけだと暗に述べる人もいる。「ラオスとタイには何ら影響はない」と結論付け
た環境影響評価をもじって、反対論者の中には、「ラオスとタイには何ら便益は
ない」と主張する者もいる。

こうした典型的な「白か黒か」「連中と我々」といった考え方は、環境影響評価
や批判論者が出す声明のいくつかに明らかに見られるが、こうした考え方は、メ
コン河流域の人々に大きな問題を引き起こしている。

先週、メコン地域の河川流域開発と市民社会について対話するため、メコン流域
国の地元集落、NGO、研究者それに政府関係者が、(タイ東北部の)ウボンラチャ
タニ大学に集まった。参加者たちは、「メコン河はこの地域の全ての人々が共有
している共同資源である」という理解に基づいて、異なる考え方を議論した。

30〜40年前に、中国指導者第一世代にあたる周恩来と賀龍は、メコン地域のカウ
ンターパートたちと会合を持ったことがある。その際にしばしば口にしたのは、
「我々は上流に住んでいる。あなた方は下流に住んでいる。同じ水を飲んでいる
のだ,親しい家族のようなものではないか」ということばだった。今日でも、こ
のことばは、人々に非常に受け入れられる考え方であり、良好な国際関係の基盤
なのである。

提案された事業の潜在的なコストと便益に対する信頼できる独立した評価、政府
間や政府と人々の間での十分な情報交換、それに、対話や協同的な意思決定は、
既存の問題の解決や将来起こりうる問題の防止に、大いに役立つであろう。

メコン河流域の政府とそこに暮らす人々にとって、それは最低限必要である。

【執筆者のYu Xiaogang氏は、中国雲南省の環境保護NGOであるGreenWatershedの
所長である】

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